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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

不屈の棋士

久しぶりに将棋エントリを書いてみようかと思わせる本と出会った。


不屈の棋士 (講談社現代新書)

不屈の棋士 (講談社現代新書)

著者,将棋関連ライターの大川慎太郎氏が将棋ソフトの実力,台頭,そして将棋界の将来について,11人の棋士に対して実施したインタビュー集。


将棋関連の新書といえば,これまで

決断力 (角川oneテーマ21)

決断力 (角川oneテーマ21)

勝負心 (文春新書 950)

勝負心 (文春新書 950)

常識外の一手 (新潮新書)

常識外の一手 (新潮新書)

などを読んで,いずれも面白かったが,本書はそれを上回る。


将棋ソフトがプロに勝つ時代になって,そして,さらにその実力差が将来拡大する中で将棋界はどうなっていくのか,という疑問について多くの登場棋士たちが真摯に回答している。これは確かに,ファン自身も不安に思う中で,もっともコンピュータの影響を受けるはずの「中の人」に対する厳しい質問だ。仮に将棋ソフトの実力向上がこれほど早く訪れなかったとしても,旧来のように新聞社がスポンサーとなって開催するトーナメントによって百数十名の棋士が食べていくという時代が永遠に続くとは思えないところ,黒船の来襲がごとく,将棋ソフトが台頭し,プロ将棋界そのものの存在が脅かされている。


これは,新規参入が増えすぎて所得が減ったとか就職ができないと騒がされている弁護士業界以上の厳しさだろう。この業界も人工知能によって淘汰されるという将来予測はあるが。


11人の棋士のインタビューから受ける印象は,おおむね将来に対して楽観的すぎるのではないかと思える。もちろん,悲観的な表現が出てくることもあるし,本音を語っているとは言えないが,「将来は将棋を観る側の人が決めること」という空気が伝わってくる。自らの何かを変えて,生き延びよう,違う世界を切り開こうという気概は伝わってこない。そりゃ,棋力の向上と,目の前の対局者に勝つことだけを信じて何十年も修行してきた人からすると,そういわざるを得ないのもわかる。


今年も,プロ棋士への入り口,奨励会の入会試験があった。どうやら関東では,ここ数年で一番多くの人が合格したという話を聞いた。当然,今の受験者は,小学生,中学生が大半だが,コンピュータソフトに慣れ親しんでいると思われる。しかし,奨励会に入るくらいの実力は,対人間では無敵レベルでも,市販ソフトにも勝てないわけで,それを知りながら勝負の世界に挑んでくる若者が絶えない。


結局,将棋というゲームが魅力的であり,ハマってしまう若者は当面絶えることはなさそうだ。そうすると,将棋界への新規参入はある程度確保できるとして,問題は「顧客」であるスポンサーやエンドユーザである「観る将」をどこまで確保できるのかということになるのだろうなあ。