Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

NDAについて(3)

だいぶ間があいてしまったが,前回からの続き。いくつかNDAのポイントを見ていく。


今,注目を集めるクリーンテクノロジーベンチャーのX社(基礎研究,基本設計を行うが,試作,製造などは行わない。)関係の3人の人物に登場してもらおう。なお,事案,登場人物はすべてフィクションである。

  • 出来杉部長:T大卒。工学博士。大手企業から3年前,先輩に誘われて転職。技術部門を統括している。
  • 御手軽くん:X社で大学時代にアルバイトした後,そのままX社に正社員となって2年目の若手社員。
  • 近鯖弁護士:X社の顧問弁護士。ビジネスと技術に踏み込むことはなく「あとは御社の経営判断ですね」が口癖。


御手軽くん「部長,Z社との共同研究開発に向けて,ポータブルバッテリーの試作をP社に委託しようと思います。来週,P社と打ち合わせします。」

出来杉部長「確かに,あのバッテリーを短期間で仕上げてくれそうなのはP社しかないかもしれない。Z社との共同研究開発目的だっていうことは話しちゃだめだよ。ところで,P社とのNDAはどうなってる?」

御手軽くん「NDAですかぁ?(・・NDAって何だろう?NAND回路とは違うよな?)」

出来杉部長「秘密保持契約のことだよ。Non-Disclosure Agreement。ビジネスマンとして,技術者として,NDAは常識だよ。」

御手軽くん「あ,秘密保持契約のことですね。それならば以前,P社との間で結んでます。」

出来杉部長「確認しようよ。開示目的や期間の問題があるからね。」


さっそく御手軽くんは管理部(X社には法務部門はない。)に行ってP社とのNDAを確認する。そこには,こう書いてあった。

株式会社X社(以下「甲」という。)と,株式会社P社(以下「乙」という。)とは,a-Si(アモルファスシリコン型)太陽電池の量産化の検討(以下「本件目的」という。)を行うにあたり,甲乙間で相互に開示される秘密情報の取扱いについて,本秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。


出来杉部長「これは包括的なNDAではないし,第8条によれば,本件目的が終了すると本契約も終了することになっているよ(秘密保持義務は存続するけれど)。だから,今回の件については及ばないよ。」

御手軽くん「わかりました。じゃあ,今回からはイチイチ契約するのも面倒なので,『本件目的』というのを『甲乙間の事業その他の業務』みたいにしてしまいましょう。」

出来杉部長「・・・」


NDAは,基本的に特定目的のために企業間で情報を開示する際に締結されるものであるから,その他の目的で情報をやり取りする場合に常に及ぶわけではない。上記の御手軽くんの提案のように,包括的なNDAにしてしまえば,いちいち締結をしなくてもよいように思えるが,それはそれで適切な方法とは思われない。この点に関しては次回以降へ。