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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

NDAについて(7)

半年ほど前に少し書いていた「NDA」の話。書きかけだったことをすっかり忘れていた。


これまでの記事のリンクは下記のとおり。

http://d.hatena.ne.jp/redips/20110306/1299422926
http://d.hatena.ne.jp/redips/20110313/1299978084
http://d.hatena.ne.jp/redips/20110327/1301229420
http://d.hatena.ne.jp/redips/20110405/1301951859
http://d.hatena.ne.jp/redips/20110408/1302188949
http://d.hatena.ne.jp/redips/20110416/1302908481


今回は,少しマイナーな「残留情報」について。久しぶりにまた御手軽君らに登場してもらおう。


御手軽くん「部長,NDAには,契約終了後には,秘密情報が載った媒体を返却しろとか,情報を消去せよ,といったことがよく書かれていますよね。でも,実際には,情報の利用者の頭の中には,もう情報が入ってしまって,無意識のうちに使っちゃうってことは避けられないんじゃないですか?」


出来杉部長「お,たまにはいいこというね。そうなんだよ。情報というのは,いったん知ってしまうと意図的に『知らなかった』という状態に戻すことは極めて難しい。だから,情報の利用者が,無意識にNDA違反を誘発してしまうということもあり得るね。」


御手軽くん「そういう場合でもやっぱりNDA違反(目的外使用など)になってしまうのでしょうか。」


上記のような問題に関して,英文のNDAでは,よく,

Residuals: The Receiving Party shall be free to use residuals of the Confidential Information for any purpose; provided that the Receiving Party does not disclose any residuals to any third party in violation hereof. The term "residuals" means knowledge or information retained in non-tangible form in the unaided memory of the directors or employees of the Receiving Party who have had rightful access to the Confidential Information. A person's memory is unaided if such person has not intentionally memorized the Confidential Information for the purpose of retaining and subsequently using it. The use of residuals is permitted only to the extent that it does not violate the patents, copyrights, and trademarks of the Disclosing Party.

といった規定をみかけます。意図的ではなく,頭の中に記憶された情報については,一定の限度で使用したとしても責任を問われない,というものです。


日本語のNDAには,見かけないケースもありますが,例えば,次のような記載も考えられます。

本契約に従って秘密情報を開示された受領当事者の役員及び従業員の記憶に留まる秘密情報であって、書面、磁気媒体等の記憶補助手段によらずにその記憶に留まるもの(以下、「残留情報」という。)については、当該役員及び従業員による残留情報の使用につき、開示当事者の特許権著作権その他の知的財産権の侵害に当たらない限り、本契約における受領当事者の義務違反の責任を問われないものとする。但し、意図的に当該秘密情報を記憶する目的をもって記憶され、その結果として使用された場合は、この限りではない。


御手軽くん「なるほど。じゃあうちも『残留情報』の条項を入れましょう。」


出来杉部長「この問題は,契約終了後に限った話じゃないよ。例えば,一人の開発者が,複数のプロジェクトを兼任していると,Aから開示された情報を,無意識に,Bとのプロジェクトで,『こんなやり方はどうでしょう?』と言ってしまうことがある。いわゆる情報のコンタミ*1と呼ばれる問題だ。」


御手軽くん「大手ならば,人を分けて,チャイナウォールを立てるという方法もありますが,うちの場合は兼任も多いですからね。気をつけるようにします。」


出来杉部長「(オイオイ,気をつけるったって,そんな簡単な問題じゃないよ。どうするつもりかな・・)」

*1:contamination