前回からの続き。NDAでよく見られる「目的」の意義について。
前回,御手軽くんは,いちいちNDAを締結するのではなく,包括的な目的設定をしたものを結んでしまったほうがよいのではないか?と提案した。
ここで注意したいのは次の条項だ。
受領当事者は、開示当事者の事前の書面による承諾なしに、秘密情報を本件目的を実施するため以外の目的に使用してはならないものとする。
(英文の場合)
The Receiving Party shall not use the Confidential Information other than for the Purpose.
いわゆる目的外使用の禁止と呼ばれる規定で,これが定められていないNDAはないといってもよい。
出来杉部長「この場合の本件目的を『甲乙間の事業その他の業務』にしてしまうとどうなるかな?」
御手軽くん「本件目的以外に使えないと制限したとしても,本件目的の範囲が広ければ,事実上どんなことにも使われてしまうことになりそうです。」
出来杉部長「今回我々が開示する情報は,ポータブルバッテリーの設計図が中心だが,基礎的な研究データなども含まれる。これを大容量蓄電池に流用することも可能だ。もっといえば,Z社のライバルであるW社との間にこのデータを使用されては大変だ。」
御手軽くん「それは困りますね。」
NDAに関する問題は,第三者への開示よりも,目的外使用のほうが多い。「第三者開示」は,断片的な事実であって,後に紛争になった場合でも開示事実や損害の立証が困難である。それに対し,「目的外使用」は,継続的な事実であり,別の事業に流用されれば,それを差し止める必要性は高く,損害も現実に生じやすい。
こうしてみると,情報の開示側からすれば,目的をできるだけ限定したほうが,情報流用のリスクは減る。一方,情報の受領側からしてみても,ある部署が何気なく受領した情報が,すでに締結されているNDAの「秘密情報」に該当して,広い目的の中に含まれると,秘密保持義務を負わされる可能性がある。受領側は,できるだけ「秘密保持義務を負う情報」と,「そうでない情報」を区別して管理する必要があることから,その範囲を明確・限定したほうが管理コストも減少させられるだろう。
次は,NDAでもっとも最初にあらわれる条項の「秘密情報」の定義について。