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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

不正競争防止法改正案について(データの保護)後編

前回の続き。前回は,「限定提供データ」の定義を紹介したが,後編は不正競争となる行為の範囲について。

(前回の記事)
http://d.hatena.ne.jp/redips/20180302/1519917779


限定提供データに関する不正競争行為は,営業秘密に関するもの(4号から9号。ただし10号に対応する規定はない。)と基本的にパラレルになっているので対比して紹介する。

不正取得・使用・開示(4号,11号)

まず,営業秘密に関する4号は,不正に取得する行為,それを使用する行為,開示する行為を不正競争と定めるが,これとほぼそのままパラレルになっている。

不正取得後の転得・使用・開示(5号,12号)

これも基本的には同様だが,営業秘密の場合,転得者が故意だけでなく,重過失の場合にも対象になっているのに対し,限定提供データの場合には重過失が除かれている。

善意転得後知情(6号,13号)

この類型は,善意で秘密を転得したが,その後,不正競争行為が介在したことを知った場合に等について定めているが,ここも営業秘密については,知情したことに限らず,重過失により知らないで使用等した行為が対象になっているのに対し,限定提供データの場合には,重過失が除かれている。

また,6号では「使用」も対象になっているが,限定提供データの場合(13号)には,後から不正行為があったとしても使用すること自体は許されている。

正当取得・図利加害目的使用・開示(7号,14号)

この類型は,情報を取得したことまでは正当行為だが,その後,不正な目的で使用したり開示することを対象とする。ただし,使用行為については限定提供データについてのみ,「その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限る。」という限定がついている。

正当取得・不正転得(8号,15号)

この類型は,7号,14号の行為後の転得者の行為を対象とするものである。ここでも,営業秘密では重過失も対象にしているのに対し,限定提供データの場合には故意のみが対象である。

取得後知情(9号,16号)

この類型は,9号は,営業秘密を取得した後に,その取得が不正開示行為であること若しくは不正開示行為が介在したことについて悪意・重過失で,その営業秘密を使用または開示する行為を対象とする。これに対し,限定提供データの場合には,重過失が除かれ,また「使用」も対象から除かれる。

10号

営業秘密の場合は,4号から9号までの行為によって生じた物の譲渡等を対象にしていたが(10号),限定提供データについてはそれに対応する規定はない。これは,物のほか,それによって学習させたAIの学習済みモデルなども対象外になることを意味する。

適用除外

詳細は割愛するが,19条1項8号,イ,ロで適用除外行為が定められている。



この法律による保護の実効性,意味については,また別途。。