Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

示談の場での失敗体験

弁護士になって最初に担当した刑事事件での失敗体験。もう2年半以上前のこと。


被害者の方の連絡先がわかり,その方の勤務先の近くでお会いすることになった。被疑者はすでに釈放されていたが,示談の成否が処分に影響する。そこで,被疑者から示談金名目で30万円を現金で預かり,金額欄などを空白にした示談書を用意し,面談の場へ向かった。


被害者のお仕事が,たまたま私の前職と関係していたこともあり,仕事に関する雑談でその場の雰囲気が和んだ。そんなこともあってか,示談金は20万円で合意し,かつ,宥恕文言(「被疑者を許します。寛大な処分をお願いします。」)も頂けることになった。


では,現金でお渡しします,という瞬間になって,固まってしまった。


なぜなら,私のカバンの封筒の中には,現金が1万円札で30枚。これをテーブルの上に出して,1枚ずつ数えて20枚渡すことになれば,目の前の被害者からすれば,「なんだ,もっと持ってるのなら,もっと払えよ」と思われてしまう。


修習中は,「示談はやっぱり現金だよ。目の前に現金を見せれば,早期合意しやすい」などという話を何度も聞いたことがあったため,その時の私は,「ちょっと現金をATMでおろしてきますから,ちょっとだけお待ちください。」などと機転を利かす余裕がなかった。


結局,カバンの中に手を突っ込んで,モゾモゾと札を数えて20枚を取り出し,被害者に手渡した。被害者は目の前で枚数を数えていたが,私はその場面をキチンと見ていなかった。喫茶店だったこともあり,現金を広げるにはあまり適さない場所でもあった。


「確かに,いただきました。ありがとうございます。」


無事に,示談が成立して事務所に戻り,被疑者に示談が成立したことを伝え,預かり金の精算をするために事務所に来てもらうことになった。念のために,預かった封筒の中身を確認したら・・


1万円札が9枚しかない・・


被害者は,敢えて21枚あるのに「確かに,いただきました。」と答えたのかもしれないし,そうではないのかもしれない。しかし,今さら,確かめろだの,返せだのいうことはできない。被疑者にも,「21枚渡しちゃいました。ま,消費税ですね。」などといえるはずもない。


仕方なく,私は自分の財布から1枚の1万円札を出して封筒に戻した。


これが,最初の刑事事件での,しょぼい失敗体験。その後,年に2,3件しか刑事事件を担当しない私としては,他の民事事件も含め,現金交付によって示談するという経験がない。