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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

NDAについて(6)

秘密情報に何を含めるのかというのは,NDAにおいてもっとも重要な点の一つ。


前回,例示したのは一般的なNDAの条項だが,それ以外についてケアすべきことを順不同に列挙する。

契約の存在・内容

基本的には秘密情報は,一方当事者が相手方当事者に「開示」する情報であるが,そもそも,両当事者間が取引をしている(または取引しようとしている)事実を秘匿しておきたいときがある。そのようなときは,「本契約の存在及び内容」も秘密情報に含めておくべきだろう。

新たに生み出された情報

こちらも上記ポイントと同様だが,一方から「開示」せずとも,両者間のやり取り,協力によって調査や,技術開発などが行われて,あらたに情報が創作されることもある。これらの情報も対象に含める方法は,いろいろ書き方があるだろうが,一例としては,次のようなものが考えられる。

秘密情報に基づいて,新たに創作,制作,発案され,開示者及び受領者の双方が覚知した情報であって,第1項の条件を満たす情報も秘密情報に含める。

「第1項の条件」とは,前回述べたような「秘密である旨明示したもの」などをいう。

文書以外の情報

技術開発の場面では,情報が文書によってやり取りされるだけでなく,試作品などの物を媒体として開示されることがあり,その形状,機能そのものが秘密にあたるということもあり得る。それらの情報を別途,書面で開示すれば,特に問題はないが,特にそのようなやりとりがないまま,デザインだけが真似されるという事態も起こり得る。前回例示した「図面文書等」「口頭」の媒体に加えて,

(2)図面文書等以外の有体物(試作品等)の形状,機能,特性による情報については,当該有体物に秘密である旨が明示されているか,当該有体物の提示又は引渡後30日以内に開示者により書面によって秘密である旨が通知されていること

とする方法も考えられる。

除外情報

だいたいどのNDAにも,秘密情報から除外される情報として,

前各項の規定にもかかわらず,以下の各号の一に該当する情報は秘密情報に含めないものとする。
(1) 開示され又は知得する以前に公知であった情報
(2) 開示され又は知得する以前に自らが既に所有していた情報
(以下略)

などの除外条項がある。ここで再び,御手軽くんらに登場してもらおう。


御手軽くん「近鯖先生,今回は別の相談なんですが,以前,共同研究を行った相手方のQ社から,当社がQ社情報を流用した,NDA違反だ,というクレームがついてしまったんです。」

近鯖弁護士「そりゃ,問題だね。実際のところ,どうなの?」

御手軽くん「確かにQ社から開示された制御アルゴリズムと同様のアルゴリズムがうちの制御部には用いられていますが,この制御方法は,当時からうちの技術者が研究していて,ほぼ完成していたんですよ。」

近鯖弁護士「だとすると,上記の(2)の『既に所有していた情報』といえるかということか。一般には,除外条項に該当するかどうかというのは,受領者,つまり我々が立証しなければならないんだけど,それは可能かな?」

御手軽くん「これが新製品の仕様書です。この部分は,もともとうちの技術です。」

近鯖弁護士「だから・・『開示される以前に』『所有していた』ということがポイントなのだから,時期的な情報が必要だね。」

御手軽くん「Q社から開示されたのは,今から4年前ですから,それより前の時点の情報ですか。そんな古いのはあるかな・・」


このように,「開示される以前に自らが既に所有していた」ことを,後になってから立証するのは容易ではない。除外事項にあたることの立証ができなかった場合には,秘密保持義務違反(目的外使用)になってしまう。NDAのもとで情報のやり取りが行われたときは,受領した情報をチェックし,除外事項(すでに知っているか,公知情報か等)に該当する場合には,その場で,相手方に指摘し,秘密情報から除外してもらうよう確認を取ることが重要だ。特に,何でもかんでも「Confidential」「社外秘」と付して情報を渡してくる相手に対しては。