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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

データの利用権限に関する契約ガイドライン

少し時間が経ったが,5月30日に経産省とIoT推進コンソーシアムから題記のガイドラインが公表された。


http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170530003/20170530003.html


データの利用や提供に関する契約については,平成27年10月に同じく経産省から「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン」が公表されているが*1,それとは趣旨・目的が異なるとされている。

具体的には,

「データの利用権限に関する契約ガイドライン」(今回のガイドライン)は,データの利用権限が誰にあるのか,ということを決めるための考え方を示しているのに対し,

「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン」は,権利関係が明らかであることを前提に,提供条件などのポイントを示しているものである。


拙書の宣伝になるが,「ITビジネスの契約実務」*2の7章では,後者のガイドラインも参考にしつつ,主にパーソナルデータの取引を行う場面を想定して,データ提供契約の考え方を示している。


さて,データの価値がますます高まってきているが,法律的な位置づけが明確でない,というか,排他的な権利(所有権等の物権や著作権等の知財権)で保護できるケースはかなり限られている。そういう中でIoTで創出・収集されたデータの「オーナーシップ」それ自体を議論することにはあまり意味がない。データに関係する当事者(例えば,装置の稼働データを生み出す装置の開発者,装置の所有者,ソフトウェアの開発者等)のいずれにデータを利用する権利があるのかということを調整,議論するための考え方の筋道を示しているのがこのガイドラインである。


筋道といってもピンと来ないかもしれないが,37頁以下の「適用例」を見ると少しわかりやすいだろう。

製造会社Aが,工作機械メーカーBから工作機械を購入し,ソフトウェアベンダCから購入したミドルウェアを用いて自社工場において工作機械を稼働。工作機械から創出する稼働データについてAB間で利用権限を定める。

といったケースが設定されている(上記の例は37頁)。こういうのはIoTネタでは頻出のケースであろう。その場合に,機械の稼働データを誰がどこまで使っていいのかということを決めるにあたって,私的自治だから,当事者間で交渉すればよいといえばそれで話は終わってしまう。しかし,お互いが権利を主張した場合に,どうやって調整していくのか,どんな要素を考慮して決めればよいのかということが書かれている。


また,特許法では「実施」が定義されていたり(2条3項),著作権法では「利用」が列挙されているが(21条以下),データについては「何ができるか」ということが法律で決まっているわけではないので,まず権限分配の対象となる「利用」行為を特定することも重要になるだろう。こうしたことを当事者間で合意さえできれば,あとは契約書に落とし込むことはそれほど難しいことではない。なので,まだまだ具体的なケースは少なく,これですべてに対応できるというわけではないが,単なる契約ひな形とその解説よりは,考え方の筋道を示すという意味で,まさに「ガイドライン」として有用なのではないかと思われる。

*1:このガイドラインについては,旬刊経理情報(中央経済社)NO.1431にて,解説記事を書いた。

*2:https://www.amazon.co.jp/dp/4785724943