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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

将棋の楽しみ方2010

世間的には地味なことかもしれないが,間もなく終わる2010年は,何年後かに振り返れば,将棋界というか,将棋ファンにとって大きな変化が起きた年になるのではないかと思う。


・・といっても,私が将棋に興味を持ち始めたのは高々ここ2,3年の話で,過去どういう時代が流れていたか,というのはわからない。しかし,なんとなく今年は将棋の楽しみ方が大きく広がった1年といえそうだ。


もともと,将棋というゲームはIT,ネットとの親和性が高い。今から20数年前のパソコン,ファミコンの時代から将棋ソフトはあったし,10年以上前のパソコン通信の時代からネットワークを介して,遠隔地間の対局が行われていた。「将棋の楽しみ方が広がる1年」となることの根拠となる事実はいくつかあるが,いずれもIT,ネットと無関係ではない。以下,いくつか気付いたことを列挙してみる。


一つ目は,「将棋連盟モバイル」の誕生。毎日,数局のプロ棋士の対局がネット中継され,これを携帯電話,スマートホンから閲覧できる。今年の7月にDoCoMo版がスタートし,順次キャリアが拡大して,年内にメジャーなキャリア,機種についてすべて対応が完了したようだ。


対局の様子をリアルタイムに伝えるのに何も大容量の動画などを送信する必要はない。非常に軽いアプリで,プロ棋士の解説がついて,対局の様子を見ることができる。そもそも将棋には情報量が少ないので,ブロードバンドも必要ないのではないかと思えてくる。


これまでも数年前からPC上では,タイトル戦と順位戦(有料)でリアルタイム観戦ができた。しかしモバイルで見られるようになり,かつ,対象となる対局が増えたというのには大きな意味があるだろう。プロ野球でいえば,日本シリーズしか見られなかったのが,ペナントレースの注目試合が毎日テレビで見られるようになった,というぐらいの意味がある。そもそも,PC上で見られるようになったのも,球場に足を運ぶか,ニュースでしか見られなかったのが,テレビでも見られるようになった,というぐらいのドラスティックな出来事だったといえるだろう。


確かに,プロの将棋は難解で,私にはついていけないところも多いが,将棋雑誌・将棋新聞より圧倒的にアクセスしやすく,盤面が動くことから,理解もしやすい。私のレベルでは,ネット中継がなければ,プロの将棋を追っていくこともなかっただろう。


二つ目は,「将棋世界電子書籍化」。今年は電子書籍元年などといわれるが,将棋の世界でも月刊誌「将棋世界」が電子書籍化された(現時点ではiPadのみ対応)。これは単に紙媒体を電子化したというだけでなく,将棋書籍,雑誌では定番の盤面図が,インタラクティブに「動かせる」というところに大きな意味がある。


いろいろなブログ等で絶賛されているが,もともと私程度の棋力では,途切れ途切れの盤面図と記号の羅列である棋譜を脳内でつなげることは至難の技で,観戦記は文章として鑑賞するにとどまっていた。それが一手一手,「見える化」することで,理解が高まることは間違いない。


この変化は,プロ野球にたとえることが難しい。あえてたとえるとすれば,野球雑誌が電子化され,記事で取り上げたシーンがビデオ再生できるというほどの変化か。米長会長は,「電子書籍は,まさに将棋のためのツール」であると述べているが,確かに将棋というコンテンツは,電子書籍に好適なコンテンツであることは間違いない。


これを機に,定跡書,全集ほか,将棋関連の書籍がどんどん電子化されてくることを期待したい。もちろん,棋力向上のためには,盤駒を横において,リアルに動かしながらやったほうがよい,ということなのだろう。しかし,ライトなファンの場合,そこまでやるのは・・という気がするので,将棋本のこうした電子化は大歓迎である。


残念なのは,まだ私がiPadを持っていないこと。


三つ目は,「あから」。情報処理学会が将棋連盟にコンピュータとの対局を申し入れ,10月に清水女流との対局が実現した。結果は,コンピュータ「あから」が勝利し,女流トッププロと互角かそれ以上の力があることが示された。近いうちに,羽生名人クラスのトッププロとの対局も実現するだろう。現在のコンピュータ将棋の主流は,実戦譜をもとに学習するという方式のようなので,すぐさまトッププロを圧倒することはないかもしれないが,今現在でも互角に戦うだろうし,抜き去る日も遠くない。


コンピュータの棋力向上が進むんで,プロの指し手(あるいはそれを上回る最善手)を予想できるようになることが「解説者泣かせ」になるのではないか,という声もあるが,そんなことにはならないだろう。自分の手元のPCが,次の手を「7五歩」だと予想したとしても,他の手の可能性をどう排除したのか,その手を選択するとその先どうなるのか,というところまでPCが自然言語で解説してくれるわけではない。


いろいろなことが起きた1年であるが,これらの出来事は,コンピュータ将棋の点は別として,技術的な進歩によって起きたというよりは,将棋連盟の意思決定,実行力がスピードアップしたことが原因だろう。上から目線的な言い方をすれば,「やればできるじゃん」といったところ。


これらの施策は確実に将棋ファンの拡大,定着に寄与するものと考えられるが,問題はマネタイズ。将棋連盟モバイルは月額315円だが,現在の新聞社をスポンサーとする収益構造を大きく変えるには至らず,「副収入」にとどまるだろう。それに,将棋連盟モバイルや名人戦棋譜中継(月額500円)と,iPad将棋世界は,リアル将棋世界と競合するから,既存事業の収益減にもつながりかねない。


ただ,これからもずっと新聞社などのスポンサーに頼りっぱなしというわけにはいかないので,こうした新しい試みは1ユーザとして支援していきたい。


マネタイズで思い出したが,もう一つ,新たな事業として,女流棋士ファンクラブ「駒桜」の発足も2010年のニュースだろう。こちらは年会費5000円*1。私は会員ではないし,今のサービス内容であれば,正直なところ,会員になることもなさそう。

*1:勧誘の様子(真偽のほどはわからず)の一例として → http://ameblo.jp/kanage101/entry-10745069350.html