Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

センスある答案

ロースクール生のゼミの中で,ゼミ生の書いた答案を読んでいると,「この人はたぶん本番試験も大丈夫だろうな」と思えるような答案がときどき登場する。


ゼミ生は,まだ1年次が終了したばかりなので,「今すぐ受験しても合格しそう」という話ではない。それに,私が見た答案というのは,試験とは異なり,事前に問題の内容をゼミで検討した結果に基づいて,PCで書いてきてもらったものなので,条件が全く違う。ただ,それでも,冒頭で述べたような感覚が生じることがある。


以前,当ブログで論文力について思うところを書いた(http://d.hatena.ne.jp/redips/20071012/1192116169 以下)。これに照らして考えると,事前に基本的事項の確認をするということで,論文要素の一つである「知識量」を一定レベルにし,考え方を議論・説明することで,「分析力」をある程度底上げする。ゼミ生が答案にするときは,「分析力」の確認と,ゼミでは話題にならない「表現力」で差が付く。


大丈夫と思える答案の特徴の一つは,わかりやすい表現を使って丁寧に説明している点があげられる。答案を書く際は,「教科書などの表現を借りてきてもよい」ということになっているが,借りてきた個所と,そうでない個所の区別がつきにくく,全体として違和感が生じない。もともと文章力があるといえば,それまでだが,そういう才能・技能は,これから先,上昇することはあっても下降することはないので,本番においては大いなる強みになると思う。


もう一つの特徴は,きわめて単純な話だが,論理構造がきちんと書面上表現されていることである。もっとも基本的なところでは,法的三段論法に則って論証されているか,というところであるし,判例の位置づけを理解し,結論を導くのに適切な方法で用いているかというところも重要だ。また,よくみられる問題として,規範定立の過程で,問題分の具体的事象を指摘しながら「よって,こうすべき」みたいな規範定立なんだか当てはめなんだかわからない場面も登場することがある。


こういう話は,ロースクールでも教えてくれないし,最初は周りの人もよくわからないから,自分の経験に照らしてみても,みんな足の届かないプールでもがくような状態になっていると思う。この「もがき」状態から脱することができれば,あとは順調に知識を増やして,実地訓練を繰り返して事務処理能力を高めれば,大丈夫なんだろう・・と考えながら,ゼミ生の答案を見ているのだが。