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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

社会人からロースクールへ進むというキャリア(1)

鳴り物入りでスタートしたロースクール制度。現在は1期生の私が卒業したばかりだが,一方で5期生の入試が行われる時期である。


ロースクール制度の狙いのひとつとして,多様なバックグラウンドをもつ人材を法曹界に送り込むことがあった。だからこそ,未修者コースというものがどこの大学にも設置された。そして,各大学とも未修者コースには社会人経験のある者を呼び込もうとしていたと考えられる。


具体的な数値による検証は行っていないが,年々社会人経験者によるロースクール出願者,入学者の数が減っているという話は聞くし,現に本学においてもその傾向は見られた。さらに,「社会人経験者」にも幅があって,最近では私のように10年選手ぐらいの者よりも,社会人経験3年未満程度のいわゆる「第二新卒」の割合も増えていると思われる(ここはあくまでも推測)。


その理由として一番わかりやすいのが,「新司法試験合格率の低さ」であろう。当初7,8割になるであろうといわれた合格率は,いまや実績ベースでは4割がいいところであり,未修者合格率で見れば,今年のみのデータだが32%だった。3年の学生生活・学費という投下資本に対し,32%の合格率では躊躇するのもわからなくはない。


ただ,いたずらに合格率の低さを煽ってみてもしょうがないので,ここでは「社会人からロースクールへ転身するということはどういうことか」というのをもう少し深く検討してみたい。


まず,経済的な側面から。


ロースクール制度の大きな問題点として,多額の学費が挙げられる。確かに,国立でも年間80万円程度,私立では高いところだと200万円だというから,安いとはいえない。ただし,社会人出身者にとってインパクトがあるのは学費よりも,得べかりし所得である。


ロースクール入学直前まで働いて,在学中に特にアルバイトをせず,卒業直後の司法試験に合格し,その年に司法修習生になったとする。順調に司法修習を終えて社会に復帰するまでは,5年弱かかる。その間,司法修習生の期間(1年間)を除けば無収入だ。聞くところによると,いずれ司法修習生期間中も給与制ではなく貸与制になるという。そうなると,5年弱,実質無収入。


仕事をやめる前に年収1,000万円あったとすれば,5年間昇給がなかったとしても,ロースクール進学をした場合と比べて,この5年間の所得に合計5,000万円の差が生じる。それに加えて,学費の数百万がのしかかる。まあ,普通に考えれば,学生やっているほうが社会人として生活するよりも,つつましく生活するので,多少の埋め合わせはなされるものの,全体から見れば焼け石に水だろう。この差は1発合格しなければ,さらに拡大する。


では,この差が将来,弁護士などになって真面目に働くことによって埋まるか,というと疑問符はつく。通常のサラリーマンよりも稼いでいる弁護士は,もちろんたくさんいるが,数年で取り戻せるということは,なかなか期待できないだろう。弁護士の数が増えれば,さらに所得水準も低下することが予想される。


ただ,弁護士になれば定年がないから,歳をとってから取り戻せるという考え方もある。しかし,上述のように弁護士の数が増えれば歳をとった弁護士が一線で活躍できるケースも減るだろうし,現在価値に還元するまでもなく,何十年も先の所得を充てにして現在の職を捨てるという考え方はナンセンスだ。


このように考えると,純粋に経済的側面だけで損得勘定を測れば,すでに安定した職を有する社会人が仕事をスッパリやめてロースクールに行くというのは期待値マイナスだと思う。繰り返しになるが,もちろん,「期待値」のレベルの話であるから,経済的にプラスになるケースもあるかもしれないが。


長くなってきたので,次回にまわす。残りは,合格率と卒業後の進路に関する観点から書いてみようと思う。


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