Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

社会人からロースクールへ進むというキャリア(4)

今から4年少々前,2007年10月に題記のテーマで3回に分けて当ブログに書いた。


http://d.hatena.ne.jp/redips/20071006/1191600470
http://d.hatena.ne.jp/redips/20071007/1191738806
http://d.hatena.ne.jp/redips/20071008/1191769920


このときは,ちょうど司法試験に合格した後で,修習前というタイミングだったので,合格&就職活動までの自己の体験+想像をもとに書いた。しかし,その後,修習1年と,実務3年を経て,だいぶ様相も変わってきているので,少しアップデートしてみようと思う。


4年前に書いたことを大雑把にまとめる部分を引用すると,

まず私は,社会人出身者がロースクールに入学することについては歓迎する気持ちである一方,厳しいハードルがいくつも立ちはだかっていることを意識しておくべきだと思うし,いたずらに不安を感じる必要もない。

最初に,経済的側面の損得勘定からすると,「損」の可能性が高いのではないかと書いたが,必ずしも「金儲け」が法律家志望の第一の動機になるわけではないので,この点は個々人の指向や動機を第一に考えるべきだと思う。

次に,合格率についてはあまり恐れることはないというようなことを書いた。適切な環境を得て,かつ,3年間がんばり続ければ,合格可能性はだいぶ高まる。ただし,「なんとなく会社がつまらないから,弁護士にでもなろう」という程度の動機の場合,3年間モチベーションを維持することは困難だ。一方で,明確なビジョンを持っていれば,仕事に向けていたエネルギーをそのまま勉強に向けられるだろうし,その勢いを維持したまま3年間は意外に短く過ぎると思う。

最後に,法律事務所を見つけるところが最大の難関だと書いた。これは裏返して言えば,
(1)これまで個人事業主や,他の士業などを行っており,ある程度の顧客がついているから,いきなり独立しても営業力の面である程度の見通しがたっている場合
(2)特定の法律事務所との個人的な繋がりがあり,卒業後に面倒を見てもらえそうな見込がある場合
(3)法律事務所への就職ではなく,前の職場やその他の事業会社等への就職・復帰のあてがある場合

・・などには当てはまらない。逆に,上記いずれも当てはまらない場合には苦戦の可能性がある。

基本路線は変わっていないが,今ならより強く,社会人からロースクール&弁護士を目指そうという人には,私なら「やめといたほうがよい」というだろう。


まず,「合格しにくくなった」ことが挙げられる。ロースクール進学者が減り,受験数自体も減っているが,合格者数も当初期待ほどには増えておらず,合格率は20%代にとどまっている。社会人&未修者の母集団では,20%を切るだろう。3回挑戦したところで,合格可能性は40%に満たない。私の知る範囲でも,社会人から挑戦したが,途中で撤退した人は少なくない。


経済的な面では,修習の時の給与制から貸与制に変わったことが挙げられる。返済は5年後からなので,当面の生活という意味では変わらないが,もともと給与制だったとしても,仕事を辞めずにそのまま働き続けていたほうが,生涯所得の期待値は高かっただろうと思われるので,より一層「うまみ」がなくなったといえる。


もっとも大きな点は仕事を見つけられるか,そして就職先の事務所を見つけたとしても,そこで当初思い描いていたキャリアどおりに経験をすることができるか,という問題である。


ここ数年で,修習生の就職事情はさらに悪化した。そうなるとスペック的な弱者からあおりを受けることになる。残念ながら,金融機関出身です,とか,理学修士ですといったバックグラウンドは,就職にあたってそれほど重視されない(というか,重視してくれる事務所に出会える可能性が低い。)。現に,2,3年の社会人経験で,弁護士業務とシナジーが生まれるような知識・経験があることはほとんどなく,単なる看板としての意味しかない。若さが最も重視されているとなれば,社会人出身者は不利だ。仮に,他の条件がすべて同じであれば,社会人経験はないよりあったほうがよい,というくらいに判断してもらえるだろうが,せいぜいその程度であり,過度に期待すべきではない。


私の知っている範囲でも,正直なところ,満足いく就職先を見つけていない人は多い。結果的に「それでよかったと思う」と納得している人は多いけれど。すぐに独立して頑張っているやり手の人もいるが,はじめからすぐに独立するつもりだった,という人は少ない。ごく一部の成功者の例ばかり注目しないほうがよい。


結局,合格可能性,経済的な期待値,そして仕事口という切り口のどれをとっても,4年前の状況よりも,悪化している。そして,この先よくなる兆しも見られないことから,自分の知り合いから「仕事をやめてロースクール行って弁護士になりたいんだけど」という相談を受けたら,「やめておこう」と答えるだろうな。