Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

労働法レポート(留学費用の返還)

試験は終わったけれど,(追試の可能性を除くと)前期は労働法のレポート提出だけが残った(提出は明日)。


まったく試験が終わった直後に提出だから気合が入らないのだが,ネタがなかなか興味深い。おそらくロースクールに入ってから課されたレポート等でもっとも面白そうなテーマ。


簡単にいうと,企業にお金を出してもらって,海外でMBAなどを取った後にすぐに会社を辞めたら,会社はその人に学費などを請求することができるか?という問題。平成10年ごろになって,この手の判例がチラホラ出ているのだが,結論だけを見ると請求を認めるもの,認めないものの判断が分かれている。ちなみにキャリア官僚が留学帰国後に早期退職していた場合については,最近問題となっているが,返還の義務付けが法制化される方向のようだ。


そこで,指定された4つの判例から,「どのような場合に請求が認められるか」「認められるとして,どの範囲まで請求できるか」ということを考えさせるのがレポートの趣旨である。法律上は,この点について明確に規定してあるわけではない(労働基準法16条参考)ので,判例の積み重ねが重要になる。


結局のところ,現業と留学内容の関連性が強いかどうかということや,誓約書などの合意がきちんとなされているか,といったところが問題になり,MBAの場合には業務への貢献よりも,労働者個人のスキルアップへの寄与度が高いから,すぐに退職した場合には返還請求を認められやすい。現に野村證券の事件では,INSEADに留学して帰国後2年弱で退職した元社員へ約1000万円の返還を命ずる判決が出ている。


思えば,今から10年前,A社に内定してから,入社後3ヶ月ぐらいまではずいぶんとお金をかけてもらった。入社前には,英会話学校に通ったし,入社直後は海外での研修も受けた。確か,「すぐに辞めた人にはお金を返してもらいます」みたいな誓約書にサインした記憶もある。で,実際に数ヶ月で辞める人もたくさんいるが,お金を返したという話は聞いたことがない。判例の基準に照らしてみる限り,A社の場合には裁判になったとしても返す必要はないんじゃないかな,と思う。ただし,A社でも社費でMBAを取りにいってる人がいるが,その場合には状況によっては返還義務は生じるだろう。