Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

不正競争防止法によるデータの保護

不正競争防止法改正によってビッグデータを保護の対象にしようとうい動きが急ピッチで進んでいる。


先日の日経記事。「ビッグデータ、保護対象に 経産省、改正不正競争防止法で検討 」

http://www.nikkei.com/article/DGKKASDF25H0B_27072017EE8000/

経済産業省はパスワードや暗号化などで管理されたビッグデータを、不正競争防止法の保護対象に追加する。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などの普及でデータの流通は活発になっている。データの正しい取得と、不正な取得の線引きをはっきりさせ、企業がデータを活用しやすくする。

27日に産業構造審議会経産相の諮問機関)に新たな委員会を設け、不競法改正に向けた検討を始めた。今秋をめどに報告書をまとめ、2018年の通常国会に改正案を提出する。


来年の通常国会で改正案が出される動きだったとは。


よく知られているとおり,いわゆる「ビッグデータ」を法的に保護しようとすると(ここでは,無断コピー,不正持ち出ししようとする者に対して民事的に差止め等を求めることを想定している。),次のような問題があった。

  • 網羅的にデータを取得しているような場合,著作権法が保護する「データベース」の著作物の要件を満たさず,著作物としての保護を受けられない
  • 不特定多数の者に対して有料でデータ販売するような場合,不正競争防止法が保護する「営業秘密」の要件である「非公知性」を満たさず,同法の保護を受けられない
  • これらの要件を満たさない場合,一般不法行為として保護を受けられるケースは決して多くない


これからIoTだ,AIだ,ビッグデータだといっている中で,データの流通が阻害されないよう,どういった形で法的保護を与えるかが産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会で議論されることとなった。


まだ第1回が7月27日に開催されただけだが*1,保護の対象(客体)についての議論がなされ,第2回には規制対象となる行為について議論が行われるようである。確かに,このペースなら今秋には報告がまとめられ,来年通常国会で改正案が出されるというのも現実味を帯びている。


では,どのようなデータが保護対象となるのか。そこは,第1回会議の配布資料7「行為規制の前提となるデータの要件に係る検討」
*2が参考になる。


営業秘密との対比で考えるとわかりやすい。簡単にいうと,秘密管理性が緩和され,非公知性については特に問わないということ話で議論が進んでいるようだ。


管理の程度については,資料7スライド3によれば,事務局としては,ID・パスワード,暗号化など,一定の技術的な手段を施してあるデータが対象になるのであって,その他の要件(投資の程度,データの量・件数,営利目的等)は導入されない見込みのようである。



技術的な手段を施せばよいということで,その技術の高低は問われていない。営業秘密と比べれば,ずいぶんと保護範囲が拡大するように思われる。


保護範囲をここまで広げてしまってよいのかという疑問もあるが,実際には,顕出の問題がある。データを不正取得した場合,それを取得者がウェブサイト等で違法に販売していればわかりやすいが,AIの学習用データとして用いたり,分析に用いていたりするだけで,その成果(学習済モデルや,マーケティング施策)からは,当該データが使用されたかどうかが判別が難しい。救済のための手続的な規定の整備も併せて検討する必要性もあるだろう。