Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

情報システム開発プロジェクトの成功率は75%

日経コンピュータ誌10月16日号の特集で興味深いデータを見つけた。


26頁以下のアンケート結果によれば,「当初予定していた品質・予算・納期(QCD)を遵守できた」新規システムの導入・開発プロジェクトの成功率は何割かということを,ベンダ,ユーザ双方に聞いたところ,開発期間によって多少の差があるものの,単純平均すると,75%が成功だったという回答だったという(回答数は2000以上)。


(出典:日経コンピュータ2014年10月16日号26頁)

これは正直驚いた。というのも,同種のアンケートが日経コンピュータ2008年12月1日号にて公表されているが,そのときの回答では,成功率は31.1%(800社に対する調査)であり*1,劇的に改善されていたからだ。


実際,私も,雑誌の解説や,講演などで,「システム開発プロジェクトは失敗が多いですよね。2008年のアンケートですが,3割しか成功しないという結果も出ています。失敗したらすぐに訴訟,というわけではないですが,プロジェクトは失敗し得ることを前提に,紛争になった場合のことを考えて,契約や,プロジェクト推進中の記録保存をしなければなりません。」ということを話していた。


そうすると,今後は「システム開発プロジェクトは概ね成功します。75%が成功するというデータもあります。でも念のために・・」としなければならないかもいけないが,導入としてパンチ力に欠ける(笑)


しかし,実態として,この6年間でそこまで成功率は劇的に改善されたのかどうかは疑問が残る。現に,昨年(2013年)の記事でも,「なぜ,いまだ7割のITプロジェクトが失敗するのか?」と題して,冒頭の日経コンピュータの記事を引用しながら,プロジェクトの成功が難しいことを語っている*2。この記事は,法律とは関係なく,開発現場に携わる方の話なので,おそらく実感として,2013年当時も,プロジェクトの成功率はそれほど高くない,というものであっただろう。


大きく改善された理由について,日経コンピュータの記事では詳細な分析が行われているわけではないが,

ユーザー企業のシステム部門やITベンダーの担当者が,プロジェクトマネジメントの知識体系である「PMBOK」の導入を進めたり,プロジェクトマネジメントの支援組織「プロジェクト・マネジメント・オフィス(PMO)」を設置したりして,リスクを抑える努力を続けてきた成果と見ることもできる。

と述べている。確かに,ここ最近では,PMOやPMBOKという用語が使われる頻度は高くなったけれども,私がシステム開発業務に従事していた90年代後半から00年代前半においても,「プロジェクトマネジメントチーム」という名で専門的に扱う組織はあったし,PMBOKを勉強してPMP資格を取る人はいた。それらの活動が実を結び始めたというのだろうか・・?


スルガ銀行日本IBM事件のように,最近では裁判例でもベンダのプロジェクトマネジメント義務について触れられる機会が増えてきた。上記のデータの捉え方次第ではあるが,本当に以前よりプロジェクトの成功率が高まっているとすると,「成功して当たり前」という状況になりつつあるのだから,専門家としてのベンダの注意義務の程度は高くなってきていると考えることもできる(例えば難手術において失敗した医師の責任と,容易な手術で失敗した医師の責任を想起すればわかる。)。