Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

投票棄権の場合には過料の制裁

GWで帰省中,中2の姪のディベート準備に絡んだ。

※最初,「中1」と書いていたが,よく考えたら「中2」だったので,修正。


選挙の際に,棄権したら過料(1万円)の制裁を課するという政策について,賛成・反対に分かれて議論するというもの。白票を投じることは棄権にあたらず,また,やむを得ない事由があるときは,制裁の対象外となるなどの付帯条件が付いている。


法学部またはロースクールでの憲法の期末試験にも使えそうなテーマだ。中2にはやや難しい。法律系の学生であれば,「制裁を設けるなんてとんでもない」ということになりそうだが,中学生から見ると,「多少の強制しても仕方ないのでは」という意見も強いようだ。


「是」の立場としては,「投票率は高くあるべき」という価値観が根底にあるようだが,これは価値観であっても,ロジックではない。「なぜ投票率は高くなければならないのか」ということを論証しなければならない。


逆に,「非」の立場としては,「投票率が高くなくても問題ない」ということを論証することになるが,これは「投票率が高いと困る」という主張をしているわけではないから,消極的な反論になる。むしろ投票率を高くするべきであるというところに一定の理解を示しつつも,高くするための施策として罰則を設けることの是非を論ずるということも重要だろう。例えば,投票率を高めるには,教育,広報その他の啓もう活動といったソフトな手段が取られるべきだ,などと。


また,「非」の立場からの積極的な主張としては,選挙権は,文字どおり「権利」なのであって,行使するもしないも自由なのだから,罰則によって義務化するのはおかしい,というものがある。「投票しない自由」を尊重するものだ。これに対して「是」の立場からは「それならば白票を投じなさい」という反論が来る。さらに「白票を投じることも義務付けられたくない」という再反論も。


さらに,「権利」「義務」を決めるのは誰か,というところまで掘り下げる必要があるかもしれない。「是」の立場からは,憲法,法律によって,「権利」「義務」が定められることを考えると,選挙「権」だから罰則を設けるのがおかしいのであれば,法律を改正して義務化してしまえばよい,まさにここで論じているのはその点なのだ,という主張もあるだろう(公職選挙法の改正だけでは憲法上の問題も生じうるがその点は措く)。要するに,「権利」だから強制してはならない,というところでの思考停止は許されない。


国民の「権利」「義務」は法律で決まるものであって,その法律を決める人を選ぶのが選挙だから,選挙のやり方というのは,すべての根幹で,とても重要なことなんだ,という話をして準備を終えた。