Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

ブログへの図面の掲載

ここ数年,プロ棋士もブログ等で積極的に自己の将棋を振り返る機会が増えてきた。


といっても,私が将棋に興味を持ったのは,ここ1年くらいなので,昔のことはよくわからない。


さて,渡辺明竜王ブログの11月21日付けエントリで,

日本将棋連盟では「棋士がブログ等で図面掲載する場合は、1局1図程度にする」ということになったので、今回よりそのようになりますが、ご了承頂ければと思います。


とある。この少し前,佐藤慎一四段のブログの中では,自己の対局(C2順位戦)を詳細に振り返るエントリに対して,「会社でいうと,自分の会社の商品をタダでばらまいている新入社員」的な批判コメントがなされた。所司七段のブログでも,詳細な図面の掲載がなくなったような気がする。


いろいろ考えさせられる問題である。


たとえば,会社でいうと,自分の会社の営業秘密を自己のブログで書き連ねれば,不正競争防止法違反となるケースは稀でも,労働契約上の守秘義務に違反する可能性が高い。これが棋士の場合はどうか。棋士と社団法人日本将棋連盟との関係がどうなっているのかわからないので何ともいえない。おそらく,それがこれまで曖昧になっていたために,徐々に各棋士が情報を公開するようになって,ルール設定の必要性が出てきて,上記の渡辺竜王ブログ中に書かれているような自主規制的ルールができたのだろう。


棋士が自分の読みや感想を披露するという「表現の自由」や,それらを楽しみにする将棋ファンの「知る権利」は,基本的に利益が一致するので,公開されればされるほどうれしいはず。では,それを抑制しようとする対立利益は何か。おそらくスポンサー。


周知のとおり,将棋連盟はスポンサーからの契約料によって運営が成り立っている。スポンサーとはほとんどが新聞社で,新聞社は,自社の発行する新聞にプロ棋士棋譜と観戦記を掲載する権利を,多額のスポンサー料を支払うことによって買っているわけだ。そう考えると,プロ棋士が,自己のブログで棋譜や感想を無料で公開してしまっては,スポンサーとしてもやってられないわけで,スポンサーが下りてしまえば,プロ棋士たちも自分の食い扶持を失うことになる。


そのような対立利益を均衡させた結果が,上記の「一局一図」なのだろうと勝手に推測する。


果たしてこのような部分最適的な解決案がよいかどうかは疑問が残る。ようやく芽生えてきたプロ棋士たちによる新しい試みを衰退させてしまう。


現時点の私には,妙案はないが,ひとつには,プロ棋士のブログの一部を有料化してしまえばよいと思っている。月額固定でもよいし,従量制にしてもよいが,プロ棋士ポータルサイトなどで情報を提供し,ファンがそれに対して対価を支払う。今までのように,「将棋ファン→新聞社→将棋連盟→プロ棋士」という間接投資ではなく,「将棋ファン→将棋連盟→プロ棋士」もしくは,「将棋ファン→プロ棋士」という,より直接的な投資関係に近づく。タイトル戦の運営などには,まだまだ新聞社の資金力・運営力が不可欠であるから,いきなり新聞社の世話にならなくてもよい,ということにはならないだろうが。