Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

注文その3

先生方への注文シリーズは今回で最終回(これまではテーマ1テーマ2参照)。テーマ3は,だいぶ寝ぼけた話だが,「王道たる指導方法」の追求について。


期末試験の講評や,休み前に出される翌期の予習指示などにおいて,

  • 丁寧に教科書を読み返して欲しい
  • 判例を読んで,事実を拾う訓練をするように
  • 条文を卒然と読むとよい

などと言われることが多い。こうした指示,助言は常に抽象的である。
スポーツにたとえて言うならば,「毎日グランド20周せよ」「素振り1000回」と言っているようなものである。


世間で通用する法律家を育成する方法には,必ず効率的で効果の高い方法があると私は信じている。これが未知の領域を探求する学問の世界や,極めて高度な芸術性を問われる世界においてであれば,王道はないかもしれない。でも,毎年1000人以上誕生する法曹の世界であれば,多少の向き不向きはあるにせよ,法科大学院に入学した人をそこそこのレベルに引き上げる方法があると思う。


その点,私は通ったことはないが,予備校の指導方法は効率性を追求し,ゴールまでの道筋を示している点では評価できそうである。ただ,実務界や,研究者からは「使えない知識」「本当に必要な部分が習得できてない」などの批判が多いようだ。だからといって,多くの対案は上に書いたような抽象的なものに過ぎない。


話はずいぶんそれるが,自分の経験から,ジャズのたとえで考えてみたい。ジャズはアドリブができてナンボという世界だと思っていたので,どのようにしたらカッコいいフレーズが即興で演奏できるのか,というのをよく考えていた。上手な人に聞いてみても,「やっぱりいい音楽を聴くことだよ」などの抽象的な答えしか返ってこなかった。


あるとき,はじめてプロの先生に師事したとき,「一流のプレイヤーにはなれなくても,一般人でも人前で恥ずかしくないレベルには必ずなれる」と教えられた。その教え方は極めてシステマチックでわかりやすかった(詳しくは割愛)。確かに,その通りに練習すれば,「上手な素人」レベルにはいけそうである。習い始めの1年で,暗中模索していた5年分ぐらいを一気に超えるほど上達したと思う。


音楽のような芸術的要素が強い分野でも,確立された指導方法に従うことで,誰でもそこそこのレベルまでは達することができる。であれば,法律家の育成(もっと具体的には,法律家としての文章・答案作成の習得)ならば,本人の努力を前提に,もっと確実にスキルを習得するうまい方法があるはずなんだけど,誰も教えてくれないのが残念である。


「現実に起こる問題は千差万別であるから,そんな安直な方法で能力を身につけることはできない」と言われるかもしれない。でも,野球だって相手投手やチーム状態,試合展開ごとに千差万別だし,音楽だって曲や編成は無限にある。でも,ある程度どんな球でも,どんなステージでも無難にこなす確率を高める方法はある。野球やジャズにできて,法律にできないことはないと思う。


そのあたりを念頭に置いた指導を先生方には期待したい。