Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

2014年IT・ネット法務・勝手10大ニュース

2012年にIT法務10大ニュースを書き,2013年はIT法務新刊紹介をした。今年はニュース紹介。


といっても,挙げてみると必ずしもIT法務にかかる内容ばかりではないが・・。特に個人情報,パーソナルデータ絡みのニュースが多い。

10位 電子商取引及び情報財取引に関する準則の改訂

8月にいわゆる「準則」が改訂された。ほぼ毎年改訂されているが,今回は,比較的多くの論点が追加・修正されている*1

  • 消費者の操作ミスによる錯誤(一部修正)
  • 未成年者による意思表示(一部修正)
  • 情報財の取引等に関する論点(一部修正)
  • デジタルコンテンツ(新規追加)
  • デジタルコンテンツのインターネットでの提供等における法律問題について(新規追加)
  • デジタルコンテンツ利用契約終了後のデジタルコンテンツの利用(新規追加)
  • 電子出版物の再配信を行う義務(新規追加)
  • オンラインゲームにおけるゲーム内アイテムに関する権利関係(新規追加)

http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140808003/20140808003.html

9位 食べログ削除請求棄却

食べログ掲載店舗が,同サイト運営者に対して,書き込みの削除請求をしたのに対し,札幌地裁は,9月4日,これを棄却する判決を出した。詳しい背景は分からないが,不競法2条1項2号以外の根拠を持ち出すことはできなかっただろうか。

http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20140916/1410877885


ちなみに,同日,京都地裁では,リフォーム業者の評価が最下位をつけられたとして,レンタルサーバ事業者に対してプロバイダ責任法に基づいて発信者情報を開示する請求について,これを認める判決が出ている。

http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20141214/1418541766

8位 CCCがオプトアウトに転換

カルチュア・コンビニエンス・クラブが11月1日にT会員向けの規約を改訂した。それまでは,会員の個人情報を加盟店に提供する方法について,共同利用(個人情報保護法23条4項3号,5項)によっていたが,これを第三者提供による方法とし,かつ,オプトアウト(同条2項)手続を導入した。


しかし,この手続では,加盟店が増えるたびにオプトアウト申請が必要であり,ユーザからはそれを知るすべもないとして反感を買っている。

http://japanese.engadget.com/2014/11/24/engadget-fes-x-and-egfes/


共同利用やオプトアウトは,個人情報保護法ザル法と言わしめていた原因であるが,今般のガイドラインの改訂や,法改正のポイントに挙げられている。

7位 景表法改正

IT法務プロパーの話題ではないが,ネットサービス事業者など,消費者を対象にした事業者は要チェックの景表法改正。6月成立法(12月1日施行)では,景表法コンプライアンス体制の確立等を義務付け,11月成立法(2016年5月までの施行)では,不当表示を行った事業者に対する課徴金制度が導入された。


法改正内容の詳細は,Business Law Journalの最新号(2015年2月号)が読みやすい。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2015年 2月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2015年 2月号 [雑誌]

6位 NICT実験報告書

大阪駅ビルで行われた一般通行人の撮影実験について,調査委員会の報告書が10月20日に公表された。

http://www.nict.go.jp/nrh/iinkai/report.pdf


報告書の内容はブログでも紹介した。

http://d.hatena.ne.jp/redips/20141103/1415000716


肖像権,プライバシー権個人情報保護法の観点から分析的に評価がなされており,実務上非常に参考になる。

5位 電子出版に関する著作権法改正

4月25日,電子出版に対応した出版権の整備等を内容とする著作権法の改正法が成立した。来年1月1日(数日後)に施行される。

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/26_houkaiseinado_horitsu_gaiyou.pdf


ユーザからみれば,紙媒体が電子機器で読めるようになったというだけの変化に過ぎないように思えるが,物の所有権が移転する紙媒体の本と違って,電子書籍(この表現も誤解を招きやすいが)はライセンスの一種にとどまる。使い勝手が良いように見えても,貸与,譲渡ができないなどの不都合もある。さらにはプラットフォームが閉鎖された場合には読むことすらできなくなる可能性もあり,現にそういう事象も生じている。今回の著作権法改正はこれらの点について手当したものではなく,10位で紹介した準則でその一部の論点を取り上げている。

4位 相次ぐシステム開発大規模訴訟

平成25年,スルガ銀行日本IBMシステム開発訴訟の高裁判決が出されたが(上告中),そのほかにも大規模なシステム開発紛争,訴訟が報道されている。


(例えば,野村HDが日本IBMに対し33億円の損害賠償を求める事件について)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO77218190Y4A910C1000000/


業界では脱SIを目指すと言われながらも,大規模基幹系システムではまだウォーターフォール型の開発は避けられず,こうしたトラブルが一定の割合で発生している。

3位 検索結果からの削除請求

10月9日,東京地裁Googleに対して,検索結果からの削除を命ずる仮処分を出した。決定文の一部は代理人の神田弁護士のブログに掲載されている。

http://kandatomohiro.typepad.jp/blog/2014/10/index.html


5月には欧州裁判所EUCJが,過去の競売・負債に関する事実の報道を検索結果から削除するよう求めていたという事案について,これを認める判決を言い渡しており,世界中で検索エンジンの結果からの削除が話題になっている。

2位 ベネッセ個人情報流出事件

あまりにも有名な事故なのであまり書くことはないが,ベネッセから個人情報が流出するという事件が明らかになり,その件数は数千万件に及ぶとされた。委託先のエンジニアが持ち出して名簿屋に売却しており,行為者は不正競争防止法違反の刑事責任を問われただけでなく,個人情報取扱事業者であるベネッセは,9月に個人情報保護法に基づく勧告を受けた。また,民事レベルでは,流出被害を受けた弁護士らが,同社を相手に損害賠償を求める訴訟を提起している。

http://d.hatena.ne.jp/redips/20140710/1405000722


当初,パーソナルデータに関する制度改正大綱では,名簿屋問題を先送りとしていたが,この事件を受けて来年に予定されている法改正に規制を導入する動きがあるなど,多方面に影響を与えている。

1位 パーソナルデータに関する制度改正大綱

IT戦略本部・パーソナルデータに関する検討会において,昨年から検討が続けられていたが,その結果が6月24日,「パーソナルデータに関する制度改正大綱」として公表された。その後パブリックコメントを経て,12月19日の第13回検討会では法律案の骨子案が提示された。

<パーソナルデータに関する制度改正大綱>
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20140624/siryou5.pdf


<第13回検討会で提示された骨子案>
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/dai13/siryou1.pdf


<第13回検討会の傍聴メモ>
http://d.hatena.ne.jp/redips/20141220/1419085003


この大綱は,わずか17頁に過ぎないが,これまでの議論が凝縮されたものであり,現在の法律の内容,問題の所在などがわからないと,なかなか理解するのが困難である。最新情報である骨子案は,基本的に大綱の内容に沿ったものであるが,まだまだいくつか議論ポイントが残っており,そのとおりに改正法として成立するかどうかは疑問がある。したがって,引き続き来年もウォッチが必要だ。


これまでの議論についてキャッチアップしたいという方は,次の雑誌がおすすめ。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 09月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 09月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 05月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 05月号 [雑誌]

おわりに

以上,ぱっと思いついたところを順に挙げていきましたが,何か忘れているものがあるかもしれません。お気づきの点がありましたらコメント欄等で指摘いただけると幸いです。

*1:もっとも,議論の過程ではさらに多くの論点が挙がっていたが,だいぶ削られている。