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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

個人情報・パーソナルデータに関すること(12)立法過程の弁護士の関与

昨日,ある尊敬する先輩からの指摘を受けて考えてみたこと。個人情報・パーソナルデータとは直接関係がない。


現在,個人情報保護法の改正準備が進められている。パーソナルデータに関する検討会のほか,外野でも改正動向に関する議論が盛んにおこなわれている。


例えば,「そんな個人情報保護法改正で大丈夫か?」など。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/watcher/14/334361/010400150/


こうした議論をリードしているのは,ごく一部の技術者,法律研究者*1で,積極的に改正の方向性について意見を表明し,注目を集めているし,多くの人に影響を与えている。そんな中で,この議論にどれくらいの弁護士が関与し,また,改正内容に影響を与えているのかというと,非常に寂しい状況。


公にはパーソナルデータに関する検討会メンバーとして1名の弁護士*2が加わっているだけ。


ほかにも,関係省庁に任期付公務員としてかかわっている弁護士はいる。また,公共政策担当のインハウス弁護士がパブコメ作成に関与することもあるだろう。しかし,彼ら/彼女らは,個人の見解を表明したり,個人の見解に方向性を誘導することは基本的に,ない。


在野の弁護士として,大綱が出ましたよ,骨子案が出ましたよ,大綱との違いはこんなところにありますよ,という解説をする弁護士はいるが(それでも多くない),「かくあるべし」という「べき論」を披露し,広く影響を与えている人は,少なくとも私は知らない。弁護士単位会などから意見表明がなされることもあるが,私の目から見ても,あまり地に足の着いた意見になっていないし,ほとんどシカトされている。


昨日は「そんなチマチマした解説を書いてるだけで満足するんじゃなくて,ビビってないで,どんどん意見出していかないと」という指摘をいただいたのだけれど,別に自分の場合は,ビビっているわけではなく,正直に言えば,先端の議論を2,3歩遅れて追いかけていくのが精いっぱい。


しかし,「先頭集団に追いついてから自分の意見を恐る恐る出していこう」という程度の気概では,おそらく永遠に先頭集団に追いつくことはない。


確かに,弁護士の仕事の本分は,目の前にいる依頼者の権利を実現し,個別の事件を解決すること。法律・ルールは,所与のものとしてその中で最大限の効果が得られるように動くのは得意だが,法律・ルールがどうあるべきかということを考える訓練を受けていないし,あまりそういう機会もない。


会社法や,債権法改正の分野は,研究者も,専門とする弁護士もたくさんいて,まさにレッドオーシャン。立法提言も多数ある。しかし,情報法分野は,研究者も含めて,専門家の数が多くなく,寡占状態。弁護士の数が増えたとはいえ,こういった部分で,ちっともプレゼンスが挙がっていかないのは自分も含めて,業界全体の怠慢なんだよなと思う。

*1:2,3人といってもいいだろう。

*2:こういう政府系委員会,検討会の不動のレギュラーである森亮二先生