Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

職場からのたより

受験新報に「職場からのたより」というコーナーがある。2007年4月号の当該コーナー中に匿名検察官S氏による「雑考ニ題」と題された短いコラムが載っている(108頁)。


「ニ題」のうち,後半部分は,旧試験,新試験の修習生の話題である。

よく,旧試験組と新試験組の質の差がどうのという論を見聞するが,実際に傍から観察する限りの感想を言えば,「大差はないが大きな違いがある」といったところか。
ちなみに,「大差はない」の方は,昔から,知識も経験も能力も努力も足りないのが修習生であり,その意味では,旧試験組も新試験組も本当に大差ないという意味である。これに対し,「大きな違い」の方は,旧試験組に比べ,新試験組の半数近くは,修習終了後すぐには実務家としては使い物にならないであろうと思われることであろうか(さらに言えば,そう思っていない者の割合が前者に比べ後者の方が高いことも,違いと言えば違いかもしれないが,この点は,筆者も人のことはあまり言えた義理ではない)。

匿名のせいなのか,S氏のパーソナリティのせいなのか,なかなかキツい指摘である(括弧内の意味はちょっとわかりにくい)。私は新旧修習生の実情を知らないので,なにもいうことはないのだが,具体的にどう「使い物にならない」のかは,気になるところである。ところが,本コラムはとても短く,この話題については上述部分がすべてであるので,これ以上の詳しい記述はない。


そこで,上記の「感想」が客観的な「真実」に合致するとして,そのような差が生じた原因を勝手に推察してみるに,以下の可能性が思いつく。

  • (1)合格者数が増えたから,旧試験ならば合格し得なかった層が合格し,平均値で見るとレベルが下がった
  • (2)新試験組は修習期間が短縮されたが,そこでロースクールと研修所での教育・研修内容の架橋がうまくいっておらず,知識のギャップが生じている(制度設計のミスの一種)
  • (3)旧試験のための勉強と,ロースクールでの勉強では,後者のほうが実務家として必要な力をつけるのに適していない
  • (4)旧試験と比較して高い合格率に安心して,受験生たちが努力を怠った(その結果,全体のレベルが下がった)


このうち,(2)については,ロースクール生としてはいかんともしがたい部分である。ただし,これはロースクールによってギャップの大きさは異なりそうである。(4)が真実だとすれば,「合格者を増やせ」というロースクール側の要求はかえって質の低下を招くことになる(ロースクールの内側にいる者としては,(4)は真実ではないと思うが)。


(1)(3)(4)については,マスの比較によって「レベルが下がった」と言われたとしても,個人の努力によって「使い物になる」レベルに到達することは十分可能であるから,必要以上に恐れることはない。とはいえ,危機感,緊張感を維持していかなければならないだろう。


それにしても,新司法試験,司法研修所,就職,さらにはその先も含めて,乗り越えなければならない山だらけである。