Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

2012年IT・ネット法務・勝手10大ニュース

今年は,昨年までよりもIT・ネット法務関連の事件が多かったように思う。独断と偏見で,2012年IT法務10大ニュースを選んでみた(国内に限る)。

10位 NTTデータ委託社員による不正

複数の地銀が相乗りして使用するNTTデータASPサービスにおいて,運用委託先の従業員が不正にキャッシュカードを偽造し,預金を引き出していたという不祥事が11月に判明した。「やろうと思えばできてしまう」ことがASPの勘定系サービスで起きてしまったことで,インパクトは大きかった(あまり大きく報道されなかったように思うが)。
http://japan.zdnet.com/security/analysis/35025199/

9位 楽天・ショッピングモール運営者の責任

2月14日の知財高裁判決(チュッパチャプス事件)で,楽天加盟店による商標権侵害について,楽天が責任を負わないとされたが,侵害の事実を知りながら合理的期間内に削除しないときには,責任を負う場合があると判示された。
http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20120218/1329543304
http://blogs.bizmakoto.jp/mito/entry/4306.html

8位 comm規約問題

NHN JapanのLINEと競合するアプリ”comm”をDeNAが10月23日にリリースしたが,その利用規約中の規定が通信の秘密の侵害ではないか,ということが話題になった。即日,commは利用規約を修正し,この問題は収束したが,利用規約の内容は「誰も見ていない」と思って安易に書いても,見る人は見ているわけで,何でも包括的に同意を取っておけばよいかというとそうでもない。
http://d.hatena.ne.jp/redips/20121027/1351347623
http://japan.cnet.com/news/business/35023475/

7位 TSUTAYAによる履歴情報収集・提供

Tポイントを使用したドラッグストアでの購買履歴が販促活動に利用されたり,Tポイントツールバーを使用すると,ユーザのウェブ閲覧履歴がすべて取得されるということが問題となった。「ビッグデータ」という名のもとに,匿名化することでデータを宝の山に変えるという気運が高まったが,そもそも,個人情報保護法における「個人情報」の定義を都合よく限定したり,読みにくい利用規約に「同意」させれば後は何でもできるという誤解に基づく事業展開に警鐘が鳴らされた。

6位 食べログ・ぺ二オク ステマ問題

正月に話題になった食べログの「ステマ」問題。依頼する飲食店,それを煽る業者も問題だが,その背景には,食べログのスコア,表示順が,集客,営業に極めて重大な影響を及ぼすようになり,スコアの上下が死活問題になるなど,食べログがすでに社会的インフラとして重要な役割を果たすようになったということが挙げられる。

この点に関して,旬刊経理情報4月1日号に,「ステルス・マーケティングをめぐる法務ポイント」という記事を書いた。そこでは,各種の想定事例などをベースに議論をしたが,想定されていた事態が起きた。12月になって多数の芸能人が,実際に使ってもいないのに,依頼に基づいて「ぺ二オクで落札しました」といった内容のブログを書いていて,しかも,その運営者が詐欺事件を起こしていたということが話題になった。

5位 コンプガチャ規制

5月の連休中の報道を皮切りに,コンプガチャが景表法で禁止されている「カード合わせ」に該当するということで,問題となった。業界の対応は早く,グリー,ディーエヌエーを中心とする6社協議会がガイドラインを作成し,7月にはコンプガチャは廃止されることとなった。こちらの6社協議会には私もメンバーに加えていただいて,微力ながら関与させていただいた。

ソーシャルゲームは,急激に市場が拡大したということもあり,他にもリーガルマターがクローズアップされている。業界も先回りして対応しているが,2013年の動きも注目したい。

4位 著作権法改正・違法ダウンロード刑罰化

平成24年著作権法改正は,本来,「日本版フェアユース」が話題の中心となるはずだったが,議員立法による修正を経て,急きょ違法ダウンロードについて刑事罰が科されることとなった(10月1日より当該部分が施行)。

内容的にも,プロセス的にも法律家の間では非常に評判が悪い。条文も理解しづらく,果たしてこんな規定に基づいて適用ができるのだろうか疑問だ。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1210/05/news004.html
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1211/09/news007.html

著作権法改正に関しては,今回の「骨抜きフェアユース」によって,本格的なフェアユース導入には30年遅れたともいわれるが,今後もTPPとの関係など,注目。

3位 グリーvsDeNA 携帯ゲーム著作権侵害事件判決

2月23日の東京地裁判決ではDeNAのゲームは「著作権を侵害する」として2億円以上の賠償を認めたにもかかわらず,その半年後の8月8日に知財高裁は「アイデアが共通するに過ぎない」などとして,グリーの請求を棄却した(現在上告中)。
http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20120318/1332047196
http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20120811/1344667791

もともと一審判決には疑問が呈されていたところなので,控訴審の結論には納得がいくのだが,この種の事案における予測可能性の低さが露呈した。現在,イナズマイレブンのゲームでレベルファイブセガが激しく争っているし,他にもゲームに関しては商標,著作権で紛争になっている。今後,ゲームがどのように法律上保護されるのかというのも議論されていくだろう。

2位 ファーストサーバ事故

6月20日レンタルサーバ事業者・ファーストサーバが大規模な障害を発生させて,5000件以上の顧客のデータを喪失させるという大事故が発生した。今のところ,本件に関する訴訟が提起されたという話は聞いていないが,同社の規約の解釈,賠償範囲については,各所で話題となった。
http://d.hatena.ne.jp/redips/20120624/1340468903
http://d.hatena.ne.jp/redips/20120627/1340793575

本件をきっかけにビジネス法務2012年11月号に「クラウドサービス利用における契約上の留意点」を書かせていただいたほか,日経その他媒体にもコメントさせていただいた。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2600L_W2A620C1000000/?dg=1
http://japan.zdnet.com/datacenter/analysis/35018527/
http://jibun.atmarkit.co.jp/lskill01/rensai/law/01/01.html
http://jibun.atmarkit.co.jp/lskill01/rensai/law/02/01.html

同社第三者委員会による報告によれば「重過失とまでは言えない」ということになっていることからも(裁判所の判断ではないが)「軽過失免責」を乗り越えたとしても,事業者に責任を負担させるのは容易ではないことがうかがえる。

1位 スルガ銀行vsIBM事件一審判決

3月29日の東京地裁判決。システム開発紛争の決着の多くは,「痛み分け」になりやすいのに対し,本件訴訟では,ほぼ全面的にスルガ銀行の主張を裁判所が受け容れており,実務上のインパクトは非常に大きかった。特に,現状の実務である「個別契約を細分化し,こまめに回収してリスクヘッジ」というベンダの手法が通用しないことがあることが明らかになった点は影響が大きい(もっとも,現時点では控訴審係属中で確定していない)。
http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20120523/1337775069

双方の当事者が有力な弁護士を投入しても,紛争発生から約5年以上かかって,ようやく一審判決ということからも,この種の事件の解決には時間がかかることが読み取れる。

私も,本件に関しては,セミナー,勉強会,ブログなどで話させていただき,いろいろと考えさせられた。

おわりに

以上が,2012年のIT法務10大ニュース(さすがに残りの数日でこれを上回る事件は起きないと思うけど・・)。社会的なIT法務の話題という観点では,アップルvsサムスンの特許紛争や,なりすましによる誤認逮捕の問題の方が話題になったと思う。しかし,他の専門家がもっと取り上げてくれているだろうということと,社会的に話題になったものの,日々の実務への影響はそれほどなかったので,今回のランクインは見送った。


これらの話題を真っ先に知ったメディアはツイッターだった。また,ツイッター上でこの種の議論をすることもあったし,リアル人脈も広がった。そういう意味では,今年は,ツイッターは情報収集・発信ツールとして必要不可欠になった年でもある。