Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

第3回情報法制シンポジウム

最近,当ブログの更新が停滞しており,セミナーやシンポジウムの参加メモになっていることが多い。


www.jilis.org


本日は,著作権法学会の年次研究大会と重なってしまったが,情報法制シンポジウムのテーマは,非常に中身が濃いので,こちらに参加することにした。


直前にプログラムの修正があり,「信用スコア問題」が加わるなど,毎度,非常にタイムリーな内容になっている。

報告「海賊版サイト対策と静止画ダウンロード違法化問題」(小島立 九州大学准教授)

ブロッキング問題を乗り越えたと思ったら,いつのまにかひそかにダウンロード違法化範囲を拡大する著作権法改正が進められたという事件は記憶に新しい。


今年の2月,3月は目まぐるしく状況が変わり,この問題から目が離せなかったところだったが,その詳細な経緯や問題点について小島先生から説明があった。


結論ありきで,賛成派の意見を強調し,反対派の意見を小さく扱ったり,関係者からの意見徴収が不十分だったりと,手続に大きな問題があったことは否定できない。次のコインハイブにも共通するが,法目的を隠れ蓑にして,別の目的(実績づくり,点数稼ぎ,選挙対策等)を実現しようとするものについてはロクなことが起きない。

報告「コインハイブ事件横浜地裁無罪判決」(平野 敬 弁護士)

平野弁護士の報告を聴きながら,改めて判決文を読み返してみた。その結果は,判例メモにまとめている。

itlaw.hatenablog.com


刑法の判断枠組みや構成要件を丁寧に説明しており,わかりやすい報告だったと思う。個人的には,本件で専門家証人として法廷に立った高木浩光先生の尋問の様子なども聞きたかった。

パネル「信用スコア問題」

ここ数日,大きな話題となったヤフーの信用スコア。主な問題点は,パネリストの一人,藤代先生の記事がわかりやすい。

news.yahoo.co.jp


と思った矢先,板倉弁護士が,法律の側面から解説している記事も。

www.bengo4.com


パネリストの折田先生も述べていたが,オンラインでの行動履歴の結果が,オフラインの行動に制約・影響を及ぼすことの問題点についてはもっと議論されるべきだと思う。人はオンラインとオフラインをコンタミさせない,したくないひとはしなくてもよい,という意思は保護されるべきだと考えられる。


これまでも広く使われてきた与信情報は,融資を受ける,保険に加入するといった特定場面において利用されてきたのに対し,オンライン信用スコアは利用範囲は無限に広がる可能性があり,影響の程度は大きい。


提供先もユーザ自身がコントロールできるわけではないだけに,ユーザから見た提供先の信用スコアも開示してもらって相互に評価すべきだという冗談のような意見が妙に納得感を生んだ。


現時点ではスコアの範囲は限定的だが,これを甘く見ているとあっという間に広がる可能性がある。人の行動にスコアが大きな影響を及ぼすようになってから批判したり規制しようとしたりしても,もう手遅れになるかもしれない。そういう意味では,この問題は継続的に議論が必要だろう。

報告・パネル 「捜査関係事項照会問題TF報告」

これまであまりスポットがあてられてこなかったテーマ,捜査関係事項照会。任意捜査ではあるが,照会を受けた企業からすると,情報開示可否の判断は難しく,判断基準も統一的なものはなかった。この問題がクローズアップされたきっかけは,Tカードに関する履歴情報が捜査関係事項照会で捜査機関に開示されていたという報道である。この点に関しては,前田元検事のブログが興味深い。

news.yahoo.co.jp



私も,顧問先に捜査関係事項照会が来て,これに答えるべきか,どこまで答えるべきか,答えたら情報の主体に対してどんな責任が生じるか,答えなかったらどんな悪影響が生じるかということの問い合わせを受けることがある。捜査の秘密の問題はあるものの,照会先は何がなんやらわからない状況で問い合わせに対応しなければならず,判断に迷うケースも少なくない。


今後のタスクフォースの活動から目が離せない。


(最後のセッション,報告・パネル「秘密計算技術応用研究TF報告」も気になっていたが,予定があったため失礼した。)