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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

オンライン広告タスクフォース成果報告会ーオーディエンスターゲティング広告における匿名加工情報の利用に関する提言

本日は,JILIS(一般社団法人情報法制研究所)の報告会に出席した。


JILISのタスクフォースのうち,「オンライン広告タスクフォース」では,昨年12月に「オーディエンスターゲティング広告における匿名加工情報の利用に関する提言」を発表した。本日の報告会は,この提言について説明が行われた。


事前に報告書(提言)を読んでから行こうと思いつつ当日を迎えてしまった。案の定,その場で報告を聞いてもきちんと頭に入らない。戻ってから読んでみたところ,これが実によくまとまった報告書になっている。


全60頁にわたる大作で,素人がパット見ると違いの分かりにくい場合分けがされていて混乱しやすいのだが,わかりやすい図表,例がたくさん挿入されており(下は例),落ち着いて読めばちゃんとわかる。


この提言は,平成27年個人情報保護法改正によって導入された「匿名加工情報」をターゲティング広告に利用するとした場合,どのような利用形態があるのかということを検討した結果をとりまとめたものである。


これを理解しようとする場合,オンライン広告に関する知識と,個人情報保護法に関する知識の双方が必要になる。法務の立場からは,前者が不安だが,この報告書の前半では,「オンライン広告の基礎」から「ターゲティング広告が表示される仕組み」「ターゲット指定のフロー」まで丁寧に説明してあるので安心だ*1


また,注意したいのは,これだけ大部の検討でありつつも,総花的に広く薄く検討するのではなく,かなりポイントを絞っていることである。例えば,匿名加工情報の作成に関しては検討対象外となっており,適法に作成・提供された匿名加工情報の利用の場面に絞られている。また,ターゲティング広告を配信する行為そのものの適法性についても対象外である。


ターゲティング広告への匿名加工情報の利用方法は,すごく大雑把にいえば,メディアが保有する個人データ等から,配信ターゲットを選別するために,匿名加工情報とレコード単位で照合することは,再識別を禁止する個人情報保護法38条に抵触しうることになるが,匿名加工情報に統計処理を施した結果を,個人データ等にぶつけて属性を追加するような利用であれば問題なさそうである*2


たまたま本日の日経新聞朝刊では,「匿名加工情報 6割の企業「活用の予定なし」」という記事が出された。これによれば,企業へのアンケートの結果からすると,

改正法の目玉施策の一つだが、現時点では企業の活用の意欲は停滞しているようだ。


とされている。確かに,匿名加工情報は,規制の内容が容易ではないうえに,生成の段階から技術的な障壁もあることから,簡単に広がるものではないことが予想されていた。しかし,本タスクフォースの研究成果をはじめ,こうした事例が増えていくことで,広がっていくことも期待したい。

*1:それでも最低限の知識は必要となるが・・

*2:大部の報告書の結論的な部分を一言でまとめただけなので,関心のある方は,ぜひ本文中にリンクした提言の本文をご覧いただきたい。