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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

個人情報・パーソナルデータに関すること(22)第4回情報法制研究会シンポ

これで4度目となる情報法制研究会シンポに出席してきた。



プログラムは以下のとおり。

特別講演 日本初の独立データ保護機関の2年半と今後(仮)
堀部 政男 一橋大学名誉教授(個人情報保護委員会委員長)
報告1 改正個人情報保護法政令等の動向について
板倉 陽一郎 弁護士
13:55〜14:25 報告2 匿名化技術の概要
高橋 克己 NTTセキュアプラットフォーム研究所主席研究員
報告3 名簿販売事業者における個人情報の提供等に関する実態調査報告
笠原 慎吾 消費者庁 表示対策課 課徴金審査官(前 消費者制度課 企画官)
報告4 個人情報保護に関する国際動向(パネル形式)
1) 司会・総論 :板倉 陽一郎 弁護士
2) EUの動向  :加藤 隆之 亜細亜大学教授
3) 国際規格動向:佐藤 慶浩 ISO/IEC JTC1/SC27国際規格委員会エキスパート
4) CBPR関連  :坂下 哲也(一財)日本情報経済社会推進協会常務理事

すでに知られているとおり,昨年9月に改正個人情報保護法が成立し,(おそらく)来年4月ころには施行される。ただし,実務上重要な規制内容の多くが,政令,委員会規則に委ねられている。この時期に開催されたのは,おそらく,当時未定だった政令,委員会規則も明らかになって,その内容についてディスカッションできるという狙いがあったのかもしれない。


しかし,本日(6月12日)時点においても,まだ政令,委員会規則の内容は公表されていないので,その目論見は外れたのかもしれないが,板倉弁護士から,個人情報保護委員会の開催状況に基づいて政令,規則の動向が紹介された。委員会事務局の方々は相当がんばっていることと思われるが,それにしても,これから政令,委員会規則案が出て,パブコメにかかって,委員会の親ガイドラインが出て,各領域別のガイドラインが出て・・各事業者が準備して・・ということを考えると,果たして施行時期に間に合うのだろうか。


以下,まずは板倉さんのプレゼンから気になったトピックから一部を取り上げる。

トレーサビリティ(第4回資料2-3*1

http://www.ppc.go.jp/files/pdf/280329_siryou2-3.pdf

以前も当ブログで紹介した疑問点(「みなし」に関すること)*2について,板倉さんも疑義を呈していた。確かに,今回のトレーサビリティに関する規制は過剰規制だと思われるが「規則で定めるところにより」というのは,あくまで手続,方法を示すと考えられる。規則で内容に踏み込んで定めようとしているが果たしてそんな強引な方法でやってしまってよいのか。

個人識別符号(第5回資料2-1)

http://www.ppc.go.jp/files/pdf/280412_siryou2-1.pdf

上記の資料は非常に簡単な内容しか記載されていないが,政令で個別具体的なものを規定し,規定することによってかえって対象が不明確になるものについては委員会規則またはガイドライン(告示)で対応する。

外国にある第三者への提供(第6回資料2)

http://www.ppc.go.jp/files/pdf/280422_siryou2.pdf

同等性認定については,「継続的に検討する」ということで,ペンディングになっている。
事業者に求められる体制について,3つのポイントが挙げられている。

  1. 契約によって我が国の基準を守ることが担保されていること
  2. 同一グループ企業であって,そのプライバシーポリシーにおいて措置を講じていること
  3. CBPRなどの基準に適合している旨の認証を受けていること

匿名加工情報(第10回資料2)

加工に関する基準を期待していたが,「共通する一般的な加工方法」などの記載にとどまっている。そして後述する「匿名化」に関する議論を踏まえると,一般的な加工方法を掲げたところで果たして事業者の行為規範となりうるかどうか。


板倉さんの発表に続いて,NTTの高橋氏よる「匿名化技術」について。

匿名化について

ここで紹介されていた議論は,すべて首肯できる内容であって,特に異論の余地はないだろう。一口に「匿名化」といってもそんなに簡単な話ではない。一定程度,特定性を低減することはできても,それはデータの性質,利用目的ごとに違う。今回の匿名加工情報の概念の導入と,それにかかる規制は,そういった議論をきちんと踏まえたうえで作成されたのだろうか(うーむ。)。


名簿屋の実態調査報告

続いて消費者庁の笠原氏による名簿屋の実態調査報告。これは,今年の3月25日に公表された報告書の内容を紹介するものとなっている。

http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/other/pdf/160325_consumer_system_other.pdf


個別には名簿屋に法令違反はあるものの,それほど深刻ではないことや,ヒアリング対象となった一般事業者も,名簿屋から個人情報を取得することはほとんどない,という回答であった。こういった調査方向は過去に例がないということだが,果たしてこれが「真実」を正しく反映しているかどうかは微妙なところだろう。


休憩後の「国際動向」については,私用により離脱してしまったので,資料の公開を待ちたい。

*1:回数は,改組後の個人情報保護委員会をいう。

*2:簡単にみなしていいの? http://d.hatena.ne.jp/redips/20160404/1459776070