Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

日弁連臨時総会

司法試験の合格者数等が議論された臨時総会が本日開催され,参加してきた。14時から開始され,19時過ぎまで,5時間以上にわたって白熱の議論が交わされた*1


もとはといえば,この総会,弁護士の有志300人以上の請求によって開催された臨時総会。請求者の案は「第2号議案」と呼ばれ,その内容は,昨今の弁護士の供給過多という事情に鑑みて,司法試験の合格者を直ちに1500人に減らし,可及的速やかに1000人程度まで減らせというもの。


これに対し,日弁連の執行部は,対抗案(第1号議案と呼ばれる)として,「まず早期に1500人」とするという玉虫色の議案を提出した。


そもそも,日弁連が司法試験の合格者数を決議してどうなるのか,という話がある。日弁連に合格者数を決める権限はない。だから象徴的な決議にすぎないのだが,だからといって何でもいいかというとそうではない。私の考えでは,現実に志願者が激減している中で,自然に合格者が減るのは仕方ないとしても,業界団体である日弁連が「合格者を減らせ!」というメッセージを発するのはどうにも「ダサい」としか思えない。業界外にどのようなインパクトを与えるのかがまったくわかっていない。


私は,第1号議案に対する動議として第3案を提出するという藤本先生の志に賛同し,ひそかに(?)活動した。当面の目標は,動議として審議の対象になるための50人を集めることだった。この50人は現実に出席している人でなければならず(委任状出席ではダメ),総会に現実に出席する人を集めることが重大な課題だった。


大学生のサークル勧誘以来のビラ配りもやった。日弁連では,多くの人が関心を持ってビラを受け取ってくれるので,事務所で刷った手持ちの100部はあっという間になくなった。


結局会場に来た弁護士は800人余。第1号議案,第2号議案の趣旨説明(お経読み)に続いて質疑応答が続く。質疑が終わって討議に入ったときに,いよいよ第3案の動議を出す機会が来た。


藤本先生の動議に続いて,動議の賛否が会場に問われた。事前の読みでは50人の出席は確保できるのではないかと思われたが,無事50人を大きく上回る方の賛成を得られた(あくまで,第3案を審議することについての同義であって,内容の賛成ではない。したがって,内容には反対という先生方からも賛同者がいたと思われる。)。これで,ひとまず最低限の目標をクリアしてほっとした(というか,50人の賛同者が得られるかどうか不安だったので,動議が認められたところで泣きそうになった。)。


このときすでに17時過ぎ。ここからが圧巻だった。


私は第3案の支持者なので,バイアスがかかっていることは否定できないが,ここからの討議において,もっとも説得的あるいは参加者の心を動かせたのは,第3案の支持者だったと信じている。


まず,提案者の藤本先生。合格者数を絞ることが「法曹志願者に対し,将来どこまで門戸が狭くなるか,その予測可能性を奪うことになる」とし「ネガティブキャンペーンをすることは止めませんか」というプレゼンは心を打った。


そして,私が心から尊敬する同期の雄,河崎健一郎。彼のフェイスブックの投稿からその一部を無断転載すると,

第二案は直ちに1500人への減員を実現し、さらに1000人以下への減員に進むべきだとしています。
そしてその理由として縷々書かれておりますが、突き詰めると、弁護士の所得が激減している、けしからんと言っています。
増員の結果として、収入が医者の平均の三分の一になってしまったとか、大手企業のサラリーマンより低い水準であるとか述べられています。
全く賛成できません。
(略)
第二案は「合格率の引き上げは合格者の質の低下をもたらす。合格率が低くなければ質を確保できない。」と言い切ります。
本当に一発試験での選別が法曹としての質を担保すると主張するのであれば、既存の弁護士に対する免許更新制の導入を提言すべきなのではないでしょうか。「質」を満たしていない方々にはどんどん退場していただきましょう。毎年下位3%くらいを排出すれば、人口問題も早々に片付くでしょう。

と喝破。この日一番の拍手があったと思う。


これに対し,執行部案サポート要員として用意された若手の討論の上っすべりなことと言ったらなかった。本人をdisるつもりはないが,なんというか,本人の言葉ではない,ふわふわした言わされている感が半端ない。


この日輝いていたのは,藤本,河崎だけではなかった。ロースクール世代として,第1号議案,第2号議案提案者に臆することなく鋭く,わかりやすい質問,意見表明をした弁護士が何人もいた。


他方で,第2号議案の関係者。聞いていて情けなくなることこの上ない。質問に対しては正面から答えない。言いたいことを言うだけ。業界の窮状を言うだけ。これでは内部の賛同を得られないばかりか,外に対してネガティブなメッセージを発する効果しかない。こんな残念なプレゼンしかなかった議案の賛成者が3000人近くいた(率にして2割強)のはむしろ驚きだ。


しかし,19時になって採決した結果,結論としては,第3案(動議)は否決,執行部案の第1号議案のみが可決されるという結果になった。


もともと委任状集めの段階で勝敗は決していただけに,この結果についてはやむを得ないところだけれど,それ以上に残念なのは,第3案について(思い込みによる)誤った理解がなされたことだ。どこをどう読めばそう解釈できるのかわからないけれど,第3案について「要するに,お金がないなら諦めろ,と言っているに過ぎない」とか「貧困層の人間が一発試験で合格するのが不満なのか」というコメントが寄せられたのは残念としかいいようがない。第3案の提案者はそんなことを一言も言っていないし,それを示唆する記載もない。自分の思いと反する案が出ると,そうやって解釈して排斥しようとする(ある意味,弁護士的な)人たちが多いのだなと思った。


今回の一連の活動は,目に見える成果として残ったわけではないが,確実に新しいムーヴメントを感じることができた。初めての日弁連総会には失望することもたくさんあったけれど,業界のこと,将来の志願者のことをこれだけ真面目に考えて,真剣に議論を戦わせたという事実があったことは間違いない。


また,法科大学院の関係者の方々には,OBたちが,多数の先輩に臆することなく自らの意見を表明し,自分だけの利益だけでなく,業界や将来の交配のための利益を真剣に考えて活動しているということを知ってもらいたい。


この日の様子は,村松先生によって,1000以上ものツイートがトゥギャられている。
http://togetter.com/li/948519


(追伸1)
この日の議長はgdgdだった・・。かなりの不規則発言を放置し,会場の発言者同士で議論が交わされる場面もあった。質問者の質問内容をきちんと聞いておらず,トンチンカンな回答者の指名をして失笑を買ったり。あれを意図的にやっていたというよりは天然だったような印象。


(追伸2)
たかだか20名程度だったと聞いているが,事前の意見・質問の提出者全員に発言の機会を与えなかったのは問題ではないか。地方からこの総会のために上京し,発言の機会を求めた会員もいたというのに。他方で,制限時間も守らず,だらだらと趣旨不明な発言を続ける発言者もいて,議長がこれを制御せず。その上,質疑打ち切り,討議打ち切りの動議はすべて執行部の「仕込み」だったわけで。

*1:この総会に出席する経緯については http://d.hatena.ne.jp/redips/20160210/1455099852