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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

個人情報・パーソナルデータに関すること(3)BLJ 2014年5月号から

前回の「容易照合性」と深く関係する特集「パーソナルデータ 企業法務の視点」がBusiness Law Journalの最新号(2014年5月号)に掲載されていたので,その一部を紹介する。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 05月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 05月号 [雑誌]

「企業法務の視点」というサブタイトルにあるように,全体的にはデータの活用をするにはどうすればよいか,という観点でまとめられている。これまでの法律系の雑誌では,プライバシー侵害の危険や個人情報該当性の指摘の話題が中心であっただけに,事業者からするとありがたい特集だといえるのではないか。


前回触れた「容易照合性」については判断主体に関する議論が多くなされており(提供元基準説と提供先基準説),この点については上沼紫野弁護士のコラム(35頁)と,鈴木正朝教授の解説(39頁)に詳しい。先日紹介したジュリストも含め,議論がだいぶ出そろってきたので,別途まとめておきたい。


それはそうと,太田洋弁護士による「予測可能性が失われればビジネスは萎縮する」という表題のインタビュー記事が興味深かった。太田先生は,他分野での活躍が目立つので,これまでこの種の問題についてあまり発言されてきた記憶がないが,事業者サイドに立った解説をされているので,紹介する。

(容易照合性の解釈について)
最近,一部の方々は,容易照合性のハードルをかなり高く解しており,(注:Suicaの履歴提供問題は)違法な提供だったと考えているようです。
(略)
法律が想定している容易照合性というのは,特別の費用や手間をかけることなく,一般的な方法でマッチングが容易かどうかなのです。したがって,普通の裁判官が解釈すれば,違法とはならない可能性が高いと思います。
(略)
ネット空間において活発に意見発信をされている方々の問題意識は理解できなくないのですが,それは今の法律文言や個人情報保護法が制定されたときの立法者意志とは大きくかけ離れています。法律の一般的な解釈において,予測可能性はすごく大事なことです。今まで一般的に理解されていた解釈と異なり,さらに法律の文言を超えて高いハードルを課すというのは解釈として明らかに行き過ぎだと思います。


「ネット空間において活発に意見発信をされている方々」にピンとくる方は多いだろう。太田先生は上記のように「行き過ぎ」だと喝破している。


これと関連して,森亮二弁護士が司会を務める匿名座談会(匿名参加者はB2C企業の法務担当者)でも,次のような発言がある。

森:「たしかに容易照合性の解釈は変わってきていますね。(略)立法後既に10年が経過したことによって照合の技術が向上しているという指摘もあります。(略)」

A:「(略)技術の向上があろうがなかろうが,たった1人照合可能な従業員がいれば容易照合性があることになるのであれば,もはや技術の向上云々の問題ではないように思います。(略)「照合の技術が向上している」から「解釈が変わってきてきたこともやむを得ない」という点についてですが,法解釈というのはそんなに単純なものではないと思います。仮に技術水準が変わっているとしても「一般人や通常の事業者がわざわざ手間暇かけて照合することはないだろう」といえるような状況であれば,規範的に「容易」という評価にはならないはずですし(略)」


全体的にパーソナルデータの取得,利用に関しては,座談会参加者が指摘するように萎縮が生じてきていることは否めない。しかし,他方で安易な「匿名化」によって個人情報として扱わないケースもある*1


これらの点については,同座談会で森先生も紹介していたように「プライバシー保護のルールを個人情報保護法に取り込む」ことで,規制の外縁が明確化されていくことを期待したい。

*1:匿名化の限界については,パーソナルデータに関する検討会の技術検討WG報告書をいずれ取り扱いたい。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/dai5/siryou2-1.pdf