ソフトウェア,ITサービス契約の英語による解説書の紹介。
- 作者: David W. Tollen
- 出版社/メーカー: American Bar Association
- 発売日: 2012/07/23
- メディア: Kindle版
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内容は入門から基本,といった感じ。私自身は,英語をスピーディに読めるようになるための訓練として買ってみた。
法律家向きというよりは,よりエントリー向けに書いてあって,法律の条文,解説なども最小限にとどめている。IT関連契約に関する留意点は,日米で基本的レベルにおいて違いはないので,IT関連契約について知ること,読みやすい英語で英文契約に親しむという一石二鳥となる本だった。ただし,私の力では,本書中に掲載されているサンプル条文の品質については評価できない。いずれもよく見る表現,内容だったので,特に問題はないと思うが・・
付録として,本文中で解説されている契約書のフォーム(ウェブサイトからダウンロード可能)がある。
本書の構成は,契約書全体をTransactional Clause / General Clause / Supporting Clauseに分けて,第1編のTransactional Clauseは,その契約類型,主要条件ごとにさらに次のように分けられて,それぞれサンプル条項が数種類挙げられて,その主たる法律関係,留意点などが書かれている。
- Standard End User Software License(標準エンドユーザソフトウェア使用許諾契約)
- Standard Distributor Software License(標準ソフトウェア販売代理店契約)
- Software Licenses in General(ソフトウェア使用許諾全般)
- Software Ownership: Assignment and Work-for-Hire(ソフトウェア権利移転,職務著作)
- Programming, Maintenance, Consulting and other Professional Services(プログラミング,保守,コンサルティングその他プロフェッショナルサービス)
- Software as a Service and Other Machine-Based Services(SaaS他,サービス)
- Payment(支払)
例えば,使用許諾契約では,同時アクセスユーザ数に応じてライセンスを定める例として次のような例文が挙げられている。他にもコールセンターのアプリケーションのようにシート数で定める場合や,サーバ台数によって決める場合もある,といったように,丁寧に説明がなされる。
Provider hereby grants Recipient a nonexclusive license to use the Licensed Product, provided: (a) _ concurrent users access to the Licensed Product; and (b) Recipient complies with the other restrictions set forth in this Section _.
第2編のGeneral Clausesは,一般にいう一般条項(それは本書では第3編のSupporting Clause)ではなく,契約に関する基本的債権債務関係以外の条項として次のような条項が集められている。
- Technical Specifications
- Service Level Agreements
- Documentation
- Updates and Upgrades
- Schedule and Milestones
- Delivery, Acceptance, and Rejection
- Technology Escrow
- Nondisclosure / Confidentiality
- Data Management and Security
- Warranty
- Indemnity
- Limitation of Liability
- Use of Trademarks
- Training
- Non-Compete and Non-Solicitation
- Software Audits
- Liquidated Damages
- Financial and System Stability
- Alternate Dispute Resolution
- Term and Termination
- Everything Else
表題を見ればだいたい内容が想像できるように,それぞれの条項についてコンパクトな解説がなされる。Escrowなどは日本ではあまり使われていないので,参考になる。
最後の第三編Supporting Clausesの構成は次のとおり。英文契約全般の基礎。
- Introduction and Recitals
- Definitions
- Time is of the Essence
- Independent Contractors
- Choice of Law and Jurisdiction
- Notices
- Government Restricted Rights
- Technology Export
- Assignment
- Force Majeure
- Severability
- No Waiver
- Bankruptcy Rights
- Conflicts among Attachments
- Execution in Counterparts
- Construction
- Internet-Related Boilerplate
- Entire Agreement
- Amendment
少し変わったところでは,Internet-Related Boilerplateで,federal Communications Decency Actによって,ペアレンタルコントロールに関する表示が必要であるとの注意喚起がなされている。とはいえ,多くは英文契約の解説書に書かれている一般的な内容で,しかも非常にコンパクトにまとめてある。
冒頭にも書いたように,IT契約,英文契約に親しむという意味では一石二鳥の本。私は最初,Kindle版を読んだが,サンプル条文との対比をするにはやはり紙が便利だと思って紙の本も注文した。
翻って,日本でこのような書籍があるだろうか?と考えてみた。パッと思いつくのは,
- 作者: 吉田正夫
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 1989/09/25
- メディア: 単行本
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だが,契約書の条項を解説するという体裁ではない。また,初版の1989年以来,改訂されていない(とはいえ,今現在でも参考になる名著だと思う。)。システム開発委託契約に特化した逐条解説ものもあるが,ライセンスやサービス系を網羅していない。