ネットベンチャー,コンサル業界の知人を中心に絶賛されている題記の本。
- 作者: 南場智子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2013/06/11
- メディア: 単行本
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南場さんの文章はよみやすくて面白い。一気に読めそうだったが,ここのところ時間が全然とれなくて何回かに分けて読んだ。
DeNA起業のとき,出資(予定)者が,ネットオークション*1に関係する特許(出願中も)の公報が段ボール数箱分送られてきて,これらについて非抵触であることを保証するとともに,侵害時には南場さん個人がインデム(補償)せよという要求があったという話。こういう形式をとるかどうかは別として,今でも出資時にターゲット会社のサービスモデルが第三者の権利を侵害していないかどうか保証させることはよくある。それにしても,まだ立ち上がってもいないサービスに対して個人に補償せよとは杓子定規な。
さらにこのエピソードには続きがあって,抵触性調査に時間をかけたせいで資金ショートしたDeNAは南場さん個人から1000万円借り入れて当座をしのいだところ,例の出資(予定)者から「借金をしていない」という表明保証に違反したとして,出資しないと言われたと。さすがに南場さんもキレて,出資は履行されることになるのだが。
99年ころのネットベンチャーに出資する大企業のスタンスが読み取れるエピソードである。
私はDeNAとはニアミスといえるほどでもないけれど,2000年初頭に転職する際に人づてに声をかけてもらったことがある。そこで,Biddersというサービスを始めて知った。結局縁はなかったのだが,もし入っていたら(入れてもらえたら)どうなっていたか。
今のDeNAは優秀な新卒が集まり,有名企業,コンサルティング会社からの転職組もたくさんいると聞く。面白いエピソードとしては,南場さんからコンサルティング会社から採用する人材へのアドバイスの箇所で,
- 何でも3点にまとめようと頑張らない。物事が3つにまとまる必然性はない。
- 自明なことを図にしない。
が挙げられているところ。コンサルティング会社を離れてしばらくすると,よくわかる。今でもコンサルティング会社が作ったドキュメントを目にすることがあるが,後者についてはときどき感じる。見やすい図にすることにこだわるあまり,内容の正確さを犠牲にしていることも少なくない。これは法律家にはないこと。両方の視点を経験できたのは非常に良かったと思う。
話がそれてしまったけれど,この本は「ここまで書いていいの?」と思うくらい赤裸々な体験の暴露だけでなく,ベンチャー企業や新規サービスの立ち上げ,運営に対する姿勢,ノウハウも含まれていて,大変参考になると思う。
今の自分の仕事は,一つのプロジェクトに専従することはなく,多くのクライアント,事件をジャグリングのようにボールが落ちないように回し続ける形態。かつてのコンサルティング会社のころや,ベンチャーの起業のように,一つのことにどっぷりと浸かることができるスタイルが少し懐かしく,うらやましく感じた一冊だった。