Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

ファーストサーバのデータ消失

6月20日に,レンタルサーバ事業者のファーストサーバ株式会社が運営するサービスの一部(とはいえ大規模)で障害が発生し,WEB,メール等のデータが喪失した。


その原因は,同社ウェブサイトによれば,

弊社メンテナンス作業において用いる特定の管理プログラムのバグにより

となっていて,現時点(6/23)では,詳細は明らかになっていない。


そして,例えば共有サーバを利用していたユーザに対しては,

障害発生以来、弊社ならびに外部専門業者を交え、データ復旧を試み続けて参りました。しかしながら、極めて遺憾ではございますが、データ復旧を行うことは不可能と判断いたしました。

と,さじを投げてしまっていて,ユーザ自らバックアップデータから復旧してくれ,という状態になっている。


この種の事故・障害は,ちょくちょく起きていて,たいがいは機器の故障で,二重化していたはずが機能してなかったとか,メンテナンス作業のオペミスでデータが消えてしまった,というもの。とはいえ,こうした事故は特定のサーバに対して生じるもので,影響度は,特定のユーザ,あるいはサーバを共有する数名のユーザだったりすることが多い。


ところが,今回の場合は相当広範囲に障害が生じたようだ。過去には,ブログサービスのDoblogがデータを消滅させてしまって,そのままサービスを畳んだこともあった。
(参考:http://d.hatena.ne.jp/redips/20090219/1235055854


さて,この種の事故が生じた場合にまず出発点になるのは,「レンタルサーバ契約」ってどんな契約?というところだ。


ユーザ側からすれば,データを預けているんだから,寄託契約的に捉えたくなるだろう。そうなれば,受寄者については寄託物について善管注意義務を負う(民法400条。民法659条の反対解釈。)といえそうだ。また「レンタル」という用語からすると賃貸借契約として捉えて,賃貸の目的物の管理を怠ったのだから,やはり賃貸人について使用収益させる義務の違反(民法601条)を問えるのではないかというところになる。


しかし,寄託契約の目的物は「物」(民法657条)すなわち有体物であって,形式的にはデータ等の情報は含まれない。また,(契約当事者間での話ではないので一概にはいえないが)レンタルサーバ契約について,「寄託契約的性質があるともいえない」とした裁判例がある(東京地判平21.5.20判タ1308-260*1)。


また,ホスティングレンタルサーバ)の場合には,実際に占有が移転するものでもないから,引渡し行為がなく(ユーザにはサーバの所在地すら知らされないことも珍しくない。),賃貸借契約というのは無理がある。


もっとも,この議論はあまり実益がない。というのも,結局,レンタルサーバ契約には詳細な約款が定めてあり,それらの規定は強行規定に反しない限り当事者間を拘束するので,その規約(約款)で当事者間の権利義務は定まっているといえるからだ。


以前,この種の障害・事故の訴訟を扱う中で,各種事業者の規約を比較したことがあるが,ほぼ例外なく「データ喪失の責任は負いません」という趣旨のことが書いてある。今回のファーストサーバの約款でも,

http://www.fsv.jp/change/pdf/yakkan/rental_server.pdf

16条1項
契約者は,本サービスが本質的に情報の喪失,改変,破壊等の危険が内在するインターネット通信網を介したサービスであることを理解した上で,サーバ上において・・保管記録等する・・データ・・の全てを自らの責任において・・保管管理・・するものとします。

としており,

同条3項
契約者が契約者保有データをバックアップしなかったことによって被った損害について,当社は損害賠償責任を含む何らの責任を負わないものとします。

との免責条項もある。18条2項では,

契約者は,自らの費用と責任において,本サービスの不意の事故に備えた措置を講じておくべきものとします。

として,何があるかわからないから,ちゃんと自分で対策を打て,としている。

そして,免責条項(35条4項)でも,

当社は,・・システムの不具合によるデータの破損・紛失に関して一切の責任を負いません。

と念を押している。もっとも,この免責条項は「当社に故意または重過失が存する場合」や「消費者契約法上の消費者」については適用しないとしているので(同条8項),この免責規定の除外規定に該当するかがポイントになる。


とはいえ,そこを突き破っても,36条の賠償制限規定で

当社が損害賠償義務を負う場合,契約者が当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負うものとします。

とあるので,支払済みのサービス料を超えて戻ってくることはない。


このように,ファーストサーバに限らず,レンタルサーバ事業者は二重三重の防御線を敷いているのでデータの滅失による補償を正面から求めることはなかなか難しい。


ただ,ここまで広範な免責条項を置いた場合,果たしてそれは公序良俗に反して無効ではないか(もちろん,消費者契約法の適用のケースもあろう)とか,限定解釈すべきでないか,という議論はある。ただ,事業者間の場合には,安価にストレージ等のサービスを提供するという観点で,免責条項を無効にするのは容易ではないと思われる。


事例は異なるものの,やはりレンタルサーバ関係の事件で,免責条項の適用を排除した事例があるが(東京地判平13.9.28*2),上記のような広範な免責規定を置いていたものでもなく,10年以上前に発生した事故のことなので,今回の事故に適用されるとは限らない。


とはいうものの,同社は,

サービス約款に従い損害の賠償を致します。なお、時期、手続、方法等につきましては現在検討しており、決定次第お知らせ申し上げますので、なにとぞご理解を賜りますようお願い申し上げます。

http://support.fsv.jp/info/nw20120623_kyoyu.html#onegai
(6月24日1:30時点)

といっているので,まったく賠償に応じないというわけでもなさそうだ(不安に思う方は魚拓を取った方がよいかも)。ただ,あくまで「サービス約款に従い」賠償するとのことなので,「約款を適用した結果,当社は免責されますので,賠償額はゼロです」という回答が来る可能性もあるのだが・・


(追記6/25 13:00)
同社のFAQによれば,免責条項の適用云々は別として,

賠償金額は?

サービス利用契約約款に基づいて、お客様にサービスの対価としてお支払いただいた総額を限度額として、損害賠償させていただきます。

となっている。

http://www.faq2.fsv.jp/faq/question.html#063


この種のサービスの責任限定条項として「過去○ヶ月にお支払いいただいた金額を上限として」などとなっていることが多いが,とりあえず本件では期間による制限はなさそうだ。長期契約者にとっては,多少の救いがある。


とはいえ,損害額を具体的に証明させるのかどうか,といった点については,

損害賠償請求の方法は?

現在検討中です。今しばらくお待ち願います。

となっているにとどまる。