Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

検事失格

話題の冤罪加害者となった元検事が実名で書いた本。


検事失格

検事失格


すでに,同業の方を中心に多くの方が書評を述べられているので,刑事事件を普段はあまり取り扱わない私が新鮮なコメントを残すこともできないが,少しだけ。


私がこの本を手に取ったのは,著者の市川弁護士をツイッターでフォローし,興味深くツイートを読ませていただいていたからだ。当初は匿名アカウントで,ヤメ検の方だなというくらいの認識だったが,本書の最後でも出てくる昨年のシンポジウムあたりから実名になったと思う。そこで,事件とツイッターのアカウントが結びついた。


市川弁護士のツイートからは,断片的に過去の事件への思いや,検察,刑事手続への問題点が提起されていて,大変勉強になっていたので,このたび本書が出版されると知って,早々に読んだ。


検察という組織の「ヘン」なところは,検察修習などを通じて少しは知っていたつもりだが,やはり想像以上。異常だと感じた個所は多数あるが,特に,いったん決めた(思い込んだ)ことは,たとえその後,それに沿う証拠が得られなくとも,矛盾する証拠が出てきても押し通し,フィードバック回路が作用しないところ。現場の検事が,みんな「消極(私は起訴すべきでないと考えます,の意)」と回答するのに,「あきらめろ(もう起訴すると決めてあるんだから)」というやり取りが行われたところに端的に表れている(本書208-210頁)。いったん敷いたレールは何が何でも突っ走るというところは,例の証拠品のデータを改ざんした事件とも通じるところがある。


私が知っている組織といえば,せいぜい社会人時代を過ごした会社くらいだ。組織には何らかの病的現象があるということはわかっているものの,検察の特異性を改めて感じる。これはやはり強力な国家権力が背景にあることと無関係ではないだろう。


出版後の市川弁護士のツイートからは,多くの批判を受けるなどして,苦悩の様子が伝わってくる。しかし,私としては,敢えて自らの過ちを認めて,被害者(遺族)に謝罪し,第一人称で病的現象を世間に公表したことに敬意を表したい。無責任で僭越な言い方になるが,稀有な経験をした人として,本書の出版で終わらせるのはもったいなく,その経験を社会に還元してもらいたいと思う。