Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

ストッケTRIPP TRAPP

マクラーレンのベビーカー,ベビービョルンのベビーキャリアなどと並んで,小さな子のいる家庭なら,ちょっと気になるグッズが,ストッケの子ども用いす「TRIPP TRAPP」だろう。


わが家も,長男がお座りできるようになったころに1つ目を購入。そのデザインに加え,座板と足板がそれぞれ移動できるという機能性も魅力で,次男が生まれた後に2つ目を購入した。


そして,周知のとおり,この種の子ども用いすには,類似品が多数出回っている。このTRIPP TRAPPの製造販売業者であるノルウェーのストッケ社と,TRIPP TRAPPをデザインした同じくノルウェーのオプスヴィック社が,日本の著名な育児用品製造販売業のアップリカに対して,アップリカ社の子ども用いす「マミーズカドル」の製造・販売の差止,損害賠償等を求める訴訟が提起された(東京地裁平成22年11月18日判決(平成21年(ワ)1193号))。

TRIPP TRAPP:原告製品)
http://ec3.images-amazon.com/images/I/41CAuPb3NeL._AA300_.jpg

(マミーズカドル:被告製品)
http://ecx.images-amazon.com/images/I/41q5KIoRMYL._AA300_.jpg


ストッケらは,著作権侵害と,不正競争防止法違反(2条1項1号)を主張したが,著作権については,いわゆる応用美術の論点について,

本件デザインは,いすのデザインであって,実用品のデザインであることは明らかであり,その外観において純粋美術や美術工芸品と同視し得るような美術性を備えていると認めることはできないから,著作権法による保護の対象とはならない

と,著作物性を認めなかった。


不正競争防止法違反については,2条1項3号(商品形態模倣行為)も考えられるところだが,販売開始から3年以上経過していることから,この点については請求が成り立たない(19条1項5号イ)。そこで,1号(商品等表示混同惹起行為)の請求ということになるが,そもそも,商品の形態が「商品等表示」といえるかどうかが問題になる(この条文はもともと商標,包装などを典型例としている。)。


この点は,かつてマグライト事件(大阪地裁平成14年12月19日判決)では,

商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し,かつ,商品の形態が,長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は,短期間であっても商品の形態について強力な宣伝広告等により大量に販売されて使用されたような場合には・・商品表示として保護される

としている*1。さらに,長年の間に類似商品が出回ると,出所表示性が失われるとした裁判例もある(ギブソンギター事件)。ただ,ハードルは高いが,認められないわけではない。


ところが,本事件では,周知性については細かく認定したものの,その前提となる「商品の形態」が商品等表示といえることを当然の前提として,あっさりと2条1項1号の不正競争を認めて差止を認めてしまった。控訴審での判断が注目される。


とはいえ,大手アップリカに対する請求が認めらたことで,他の類似品に対してもストッケは攻勢を強めるのだろうか。

*1:他にもiMac事件(東京地裁平成11年9月20日決定)等で商品自体の形態を商品等表示として認めている。