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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

当然対抗制度の導入

第177回通常国会に,特許法の一部を改正する法律案が提出されているが,その改正内容のうち,通常実施権の対抗要件制度について。


現行法では,通常実施権者は,その通常実施権を登録していなければ,特許権の譲受人等の第三者に対して対抗できないとされている(特許法99条1項)。登録は,効力発生の要件ではなく,対抗要件だとされている。実際に登録されている通常実施権は,実数がわからないため,分母が不明だが,1.3%程度ではないかと言われていた*1


登録制度が使いにくいことや,実施権設定の事実を公表したくないというのが,登録が行われなかった理由である。そこで,包括クロスライセンスなどを意識した特定通常実施権登録制度を創設したり,通常実施権登録制度についても,開示の制限を設けるなどの修正が行われていたが,結局のところ,あまり利用されておらず,通常実施権者の保護としては不十分だとされていた。


そこで,登録をしなくとも,自ら通常実施権の存在を立証すれば,第三者に対抗できるという当然対抗制度を導入する法案が出されている。これにより,通常実施権者としては,ライセンサー(特許権者)の破産や,譲渡があっても安心して実施することができるようになるということになるが,いくつか疑問はある。


あくまで,通常実施権者が実施することに対抗できるというものに過ぎないが,ライセンス契約で定められた事項は,どうなるのか,という点である。具体的には,(1)ロイヤルティは誰に支払うべきか,(2)独占的通常実施権の場合どうなるのか,(3)サブライセンスの許諾をすることが認められていた場合どうなるか,といった点である。


(1)は,常識的に考えて,譲受人に支払うべきだといえるが,一括して実施料を全額支払っていた場合には,譲受人は,通常実施権者に対してロイヤルティを支払え,とはいえなくなるだろう。


(2)については,ライセンス契約の地位譲渡をするなどの特段の合意がない限り,特許権の譲渡によって,付随する合意(例えば他の者に対して通常実施権を設定してはならないという義務等)までも移転するとは考えにくい。そうした合意が公示されているわけでもないことを考慮すれば,譲受人が新たな通常実施権を設定することは妨げられないとすべきだろう。


(3)についても同様で,サブライセンス権を設定できるという合意までも移転させるような特段の事情がない限り,サブライセンス権を許諾することはできないとすべきだろう。そうなると,譲受人に無断で,通常実施権者と第三者との間でサブライセンスの合意がなされたとしても,当該第三者による特許発明の実施は特許権侵害になる。


ざっと考える限りではこんなところだが,工業所有権法学会の総会(5/28)@名古屋*2では,当然対抗制度をテーマとしたシンポジウムが開かれるので,ぜひ話を聞いてみたい(出張,運動会など多くの行事とすでに重なっているので無理か・・)。

*1:特許制度研究会「特許制度に関する論点整理について」7頁注

*2:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaipl/forum.html