Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

日本における専門事務所の可能性

部屋の整理をしていたら2008.8月号の「自由と正義」が目にとまった。特集2「法律事務所の多様な運営を考える」のサブ特集「日本における専門事務所の可能性」だ。


そこでは,交通事故,医療事故専門の事務所の可能性についての論考があるが,特に目に留まったのが,内藤篤先生の「エンタテインメント・ブティークとしての中小法律事務所」である(81頁)。


内藤先生は,この論考でも触れられているとおり,かつては大規模事務所に所属していたが,独立して,エンタテインメント分野専門の事務所を運営されている。

よく言われるところの「ワンストップ・サービス」なるものも,あまりまともに受け取っていない。今どきの企業クライアントはそんなにウブではない。M&A案件で大規模事務所のお世話になったからといって,労働紛争が発生すれば,それは労働案件の専門家に行くものだ。


確かに,大型倒産,大型M&Aなどの案件は,大勢の弁護士がいる大規模事務所に依頼するメリットはあるかもしれない。しかし,知財,エンタメ,ITなどの分野は,それほど多人数が必要ではないから,大規模事務所である必要はない。フィーも一般には中小規模事務所のほうがリーズナブルだ(私が書くとどうしてもバイアスがかかってしまうのだが)。


以前に来た相談者の話。そのクライアントは,それまで国内取引だけだったが,海外のソフトウェアのローカライズをするために,英文契約を締結することになった。相手方から送られてきたローカライズに関する契約と,総代理店契約(ライセンス契約も含む。)のドラフトのレビューを大手事務所に依頼したところ,目が飛び出る金額だったとのこと。確かに,かなり詳細なコメントが付けられていたようだが。クライアント曰く,ソフトウェアの導入,カスタマイズの考え方が正しく理解されないまま大量のコメントがあり,処理に困ったという。


自由と世界の特集から話がそれてしまったが,最後に内藤先生のコメントに戻ると,

リーガル・プラクティスとは,すぶれて個人的な営みなのだと思う。どれだけ優れた個人が仕切れるか,が勝負なのだ。

というところは肝に銘じておきたい。