Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

本をスキャンしてPDFに変換するサービス

大和印刷という会社が1冊100円で手元の書籍をPDF化してくれるというサービス(サービス名:BOOKSCAN)を開始する。


このサービスは本を裁断してスキャナに読み込ませ,電子化した後のバラバラになった書籍は廃棄されるという仕組みで,たまった蔵書の保存方法の一形態としては魅力的なサービスである。しかし,法律屋としては,このサービスの適法性に注目せざるを得ない。


適法ではない,という論理構成を考え出すことは簡単だ。現行著作権法上では,権利者の許諾なくして複製できるケースは限られており(同法30条以下),代表的なのは30条1項の私的使用のための複製である。これにより,自宅のスキャナで書籍を電子化することは適法となる。


しかし,この規定は,「使用する者が複製することができる。」とあるように,使用者自身が複製することを想定していて,第三者に複製を委託する場合を想定していない。したがって,第三者たる業者が複製をすれば,30条1項の適用範囲外になる。とはいえ,お父さんが子どもに「やっといて」と家庭内で頼むくらいは,子どもはまさに「手足」として代行したにすぎないから適法であることには代わりない。


同種のサービスとして,2004年ころ,Livedoorが自宅にあるCDを送るとmp3ファイルに変換してCDとともに送り返してくれる,というサービス「Livedoorエンコーダー」があった。しかし,これはまもなく終了した。


そして,昨年,雑誌をオンラインで閲覧できるというサービス「コルシカ」が立ち上がったが,わずか数日で停止し,先月,完全に閉鎖された。このサービスについては,権利者,権利者の団体から抗議があった。


以上のような事実や,法律の文言に照らすと,どうも危ないな,というのが法律家としての答えになりそうだが,果たしてこの結論が社会的に妥当なのかというとそうでもないだろう。


Livedoorエンコーダーと比べてみても,同サービスは元のCDとmp3ファイルがともに利用者の元に戻ってくるため,完全に「複製」であることは否定できないが,BOOKSCANの場合,元の本は裁断・廃棄されるため,戻ってくるのは電子データのみである。そういう意味では,そもそも複製ではないのではないか,と考えることもできそうである(小飼弾氏のブログ(http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51434363.html)はこの論調である。)。しかし,「複製」の定義は,「有形的に再製」することをいうので(同法2条1項15号),オリジナルが廃棄されるかどうかは関わりないので,この論理は難しい。


また,コルシカの場合,ネットで購入したその場から閲覧できるようになっていたため,当該ユーザが購入した雑誌を複製しているわけではないという問題があった。それに比べてBOOKSCANの場合は,現実に自分の送った本が書き込みも含めて電子化される。とはいえ,この違いが著作権法上,適法へ傾くほうへ作用するかというと,これも疑問である。


そうなると,権利者による黙示の許諾があるとか,実質的違法性がないとかいった,やや特殊な論理を持ちださないと適法だと構成するのは難しい。


実体法上の違法・適法はともかくとして,現実にこの事業者が著者ら(権利者)から何らかの責任を追及されるリスクを考えると,動画投稿サイト(昨年,東京地裁で違法だと認定されたTVブレイク等)や,テレビ番組遠隔地視聴サービス(録画ネット,まねきTV等)に比べると,JASRACやテレビ局のような権利者とは権利者の性質も違うので,権利行使してくる可能性は,相対的には大きくないのではないかと考えている(つまり,黙認の可能性も高い。)。


なお,BOOKSCANでは,

BOOKSCANへご依頼頂いたものは、著作権法に基づき、著作権保有者の許可があるものとして判断させて頂きます。許可がないものは、ご遠慮頂くか、ご自身でスキャンしてください。


http://www.bookscan.co.jp/law.php


という注意書きがあるが,現実に本の所有者が著者に対して「これを裁断して電子化してもよいですか」などという許諾を得ることは到底考えられない。現実に争いになったときに,事業者がこの注意書きを援用して「みなさん許諾を得ているものと信じていました」という抗弁が許されるかというと,おそらく裁判所は認めてくれまい。


もうしばらく,このサービスに注目してみたい。