Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

請求の趣旨から考えよう

今やっているTAゼミの件で。


私がやっているのは今のところ民法限定。その他の科目はあまり自信がないし。といっても,民法の中でも担保物権家族法とかは普段の実務でほとんどなじみがない。


さて,私には今さら難しい法的論点について語る資格もないし,能力もないので,ロースクール生に対して私ができることといえば,とにかく事例にぶちあたったときの基本的考え方と,それを答案に表現するときの留意点を仕込むことしかできない。


たとえば,民法の問題。旧試験の問題を使っていると,「AB間の法律関係について」という問いがあるのだが,ここで,まず「Aだったら(またはBだったら)相手に何を求めるだろうか(→すなわち請求の趣旨)」を答えてもらうところからスタートする。その答えは「契約の解除」でもない。結局は,「お金を返してほしい」ってことでしょう,と。「請求の趣旨」的にいうならば「金○円を支払え」ってことだと。


次に,なんでそんなことがいえるのかという根拠(→すなわち訴訟物)を答えてもらうようにしている。分からない場合には,債権か物権か,債権ならば,債権の発生原因4種類まで立ち返る。訴訟物がわかれば,根拠条文を答えてもらう。物権的請求権の場合には,そこで行き詰る。このあたりで複数挙がる場合には,訴訟物理論の話も登場する。


訴訟物がわかれば,その要件,請求原因を答えてもらう。あまりこれを突き詰めると,要件事実論になってしまうので,まずは民法上の要件を条文から拾ってもらい,条文に書かれていないものについても必要に応じて検討してもらう。


そこで,各要件について,この事例においては争いがないのか,問題になるのか,それは事実の問題か法律の問題か考える。この点を考えると,自白,否認などの訴訟上の概念も登場する。このあたりにきてようやく,「論点」にぶち当たり,また,相手方の反論に入ることになる。相手方の反論が上がれば,その法的意味を問い,根拠条文と・・とやっていく。


こんな調子でやっていくので,旧試験の問題1問であっても,2時間では足りない。


こうやって一歩一歩考えていくと,実際の試験では論点を検討したりする時間が足りません,という指摘がある。むしろ逆で,論点にたどり着くまでの問題の所在が整理されていなければ,論点が的を外すし,採点者にも伝わらない。というか,実務ではここをはしょることはあり得ない。まだ本番試験までは年単位で時間があるので,条文と事実だけを頼りに,問題点の指摘にたどり着けば,今のところは私は十分だと考えている。


結局,答案にどう書いたらよいかわからない,という指摘もある。これは確かにもっともで,答案で,「請求の趣旨は・・」などと書く必要もない。そこは問題の所在を指摘するまで,さっさと簡潔に書く訓練も必要だと思う。ここは,ゼミ後に各自に答案を書いてもらって,あとで添削することで,答案に書き残すべきことと,検討するが書くまでもないことの色分けを理解してもらうことになる。


この作業は至極当たり前のようでも,受験生,学生間では支配的は思考過程ではない。とはいえ,刑法各論ではおおむね似た考え方(成立する犯罪の指摘→構成要件の摘示と説明→あてはめ・論点の論証)をやっているが,実定法をやっている限り同じはずである。実体法に限らず,訴訟法でも同じ考え方を流用できるはず。


契約解除における直接効果説がどうの,というよりも先に,契約解除の根拠条文と要件と効果である。