Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

国家的詐欺?

今回の司法試験結果に対して,受験生の中には「国家的詐欺だ」と指摘している人がいる,という報道がある。


この「国家的詐欺」という言葉。私がロースクール入学当初の3−5年前には盛んに言われていた。しかし,今になって「国家的詐欺だ」と真剣に思っている受験生がいたとしたら,かなり情報分析が甘いのではないか?と思う。


インタビュアーであるマスコミに「もともと,7,8割が合格するといわれていた試験ですよね。これって国の発表を信じた受験生が騙されたことになるから,詐欺のようなものではないですか?」なんて誘導されて,「そうですね」と相づちを打っただけかもしれないので何ともいえない。


確かに,ロースクール制度立ち上げ当初には,7,8割の合格率,といわれていたように思うが,実際に第一期生が入学する前には,ロースクール定員や受験回数に照らし,単年度合格率は早々に3割を切ることは目に見えていた。むしろ,想定以上に受け控えが多く,私たちの年(2007)でもギリギリ40%をキープしていて,意外だったぐらいだ。また,単年度合格率が7,8割だという話はどこにもなく,仮に今回の合格率約27%で合格率の低下がサチったとすれば,3回以内に合格する確率は,1-(100-27%)^3で,約62%だから,それほど大きく外れたともいえない。


もっとも,今回の「詐欺」という言葉は,7,8割を達成できなかったことについて問題があったのではなく,合格者数の見込みが2500人から2900人であったのに,実際には2000人ちょっとであったことに対する批判だともいえる。これについては,受験生の立場からすると(特に,まもなく明らかになる試験の総合順位が2044-2500番くらいだった人からすると)文句を言いたくなるのはわかる。


しかし,何も自分が合格した後だから「合格者数を増やすな」と言っているわけではないが,試験の合格率の低下よりも激しく悪化している就職状況を見ると,もしも今年2500人合格していたとしたら,実務界はもっともっと混乱するだろうな,と思う。そう考えると,合格前で人を滞留させるのか,合格後に人を滞留させるのか,どちらが社会的損失が少ないのか,という議論になっていくのかもしれない。