Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

棋譜の掲載と著作権

プロ棋士の対局結果である棋譜を,自分のブログに掲載すると著作権侵害になるのか?という疑問について。


上記のような疑問をふと抱いたのだが,これはちゃんと考えてみると意外に難しい問題だ。ネットで少々調べてみた範囲でも,各種の議論があるようで,裁判所などによる公権的判断も出ていない模様だ。


考えてみれば,いろいろな論点がありそうだ。たとえば,

  • 一般的には,棋譜は著作物か?という命題が議論されるが,「著作物」(著作権法2条1項1号)となるのは対局そのものではないか。棋譜は,対局の事実経過を記録したものにすぎないのではないか。
  • 対局そのもの(または棋譜)は,著作物といえるのか。特に,「創作的に表現したもの」(同号)といえるのか。
  • 著作物になるとした場合,棋譜を掲載する際に許諾を得ようとしたら,その相手方は日本将棋連盟か,個別の対局者か,さらには新聞社等になるのか(職務著作(同法15条)ではなさそうだが,連盟と棋士の契約で何らかの定めはありそうだ)。
  • 著作権侵害となった場合,損害額はどうやって算定されるのか(推定規定は同法114条)。


などなど。これらについては,もう少しこれまでの議論にキャッチアップした上で考えることにして,この場では問題提起にとどめる。


以下,関連する話題として,


観戦記や棋譜解説などについては,著作物性が否定されることはまずないと考えられるので,これをブログ等に転載する場合には,引用(同法32条)として認められる範囲でない限り,複製権侵害となる。


横歩取り8五飛」「一手損角換わり」などの戦法は,アイデアであり,表現ではないため,著作権法の保護対象外となる。さもないと,新手をまねしただけで「侵害だ」ということになり,将棋というゲームの存在意義がなくなる。


また,詰将棋についても著作物性は認められるだろう。参考までに,パズル(クイズ)に関しては,パズルの作家が,きわめて似ているパズル(クイズ)を出版した相手方に対し,損害賠償を求めた事件*1において,個別の問題をみながら著作物性を判断した事例がある。

*1:東京地裁平成20年1月31日判決平成18年(ワ)13803号