Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

「ITと法」の真ん中を論じよう

日経BP社の「日経コンピュータ」誌巻末にCSKの有賀貞一氏のコラムが掲載されている。12月10日号(No.693)のテーマは,「『ITと法』の真ん中を論じよう〜法律家のリテラシー向上に期待」というものであった。


その中身は,筆者が法学者・弁護士等の会合に招かれた際の感想を基にして,法律家に対する苦言を呈すると言う内容である。


例えば,

ITと法を語るとなると,個人情報保護ないし労働法関連ばかりになってしまう点にも首をかしげた。(中略)だが,「個人の頭にある知的発想に基づくソフトウェア作り」という,ど真ん中のテーマこそ,ぜひ議論して欲しいと思う。法律が未整備だし判例が少ない領域だが,議論しやすいものばかり議論するのはいかがなものか。

優れた論理体系を身につけるべき法学学習者が,論理性の典型である数学や物理をなぜ学習せずに済むのか,不思議でならない。


など。


本文には「SaaS*1」に対する理解不足なども例に挙げられていたが,法律家にSaaSの意義,ビジネスに与えるインパクトの理解を求めるのはちょっと酷な気もするが。


この例に限らず,おそらく医療と法,建築と法,金融と法などの領域で,業界の方に「法律家の皆さん,もっと勉強してください」という不満を持っている人が多いのではないかと思う(それでも,金融,建築に関しては,ITと比べると法整備も進んでいて,法律家と現場とのギャップが少ないと想像しているが)。一方で,法律家も「業界の人も,もっと法律知識を身につけていかないと」という意見を持っていると思う。


法律家の専門性は,大学のカリキュラムや,弁護士の経歴等をみると,「法領域」で示されることが多い。ビジネスと関連する領域でいえば,「独占禁止法」「知的財産法」など。実務で求められる切り口は,むしろ業種・業界であって,上記のような不満が出されるのは,業界・業種単位での専門家が少ないからなのだろう。


同じ売買契約をもとにして生じた問題であっても,自動車部品と原油・石油製品とでは取引条件や商慣習が大きく異なる。どんどんスピード感が向上していく世の中にあっては,こうした背景事情などを熟知した上で,サクサクと問題解決していける法律家の需要が高まるだろう。そう考えると,「企業内弁護士」は「業界の専門家」を超えて「当該企業の専門家」であるから,その需要が高まるはずなのだが,今のところ種々の理由により,うまいこと供給されていなさそうだ(この点に関しては別の機会に考えてみる)。

*1:ソフトウェア・アズ・ア・サービス