Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

漏洩/類題・その後

試験終了から半年近く経過したが,この問題は簡単にカタがつくものではなさそうだ。


asahi.comの記事によると,


「出題、事前に知りメール 司法試験考査委員の元慶大教授」

http://www.asahi.com/national/update/1110/TKY200711100266.html

植村氏は4月11日のメールについて、「重要なので試験にかかわらず知っておいて欲しくて紹介したが、『(試験に)出るよ』とは書かなかった」と弁解した。

(中略)

8日開かれた参議院法務委員会では、鳩山法相が「出題された問題を見て(判例を)知っているか知らないかは重大な境目。とんでもないメールだ」と答弁し、再調査する意向を示した。同委員会では今後、植村氏の参考人招致を検討する。


とある。植村氏の弁解がとおるほど甘いものじゃないだろう。


話は変わって,法学セミナーの冒頭では,毎回,法科大学院探訪と称して,法科大学院の紹介を行っている。最新号(2007年12月号)の当該コーナーは慶応LSを訪問し,異例のインタビューを行っている。それによると,

編集部「『考査委員が受験指導してはいけない』という法務省の要請を
    植村元教授は知っていたのでしょうか?」
回答者「植村氏は,『受験指導に関与するな』ということの意味を,
    予備校や受験団体に関与するなという意味だと理解していて,
    慶應大の自分の教え子に対して勉強会をするのはこれに含まれ
    ないと,当初は理解されていたようです。」
編集部「しかし,そんなことは旧試験以来法学部では学生も含めて常識
    だったことでしょう。」
回答者「植村氏は初めて考査委員になられたのですが,どうしてそんな
    ご判断をされたのか,その辺はわかりません。あとでは大変軽
    率で,申し訳ないと反省していましたが。」
編集部「答練は,大学施設を使って,学事課を通して教室を確保し,毎
    回170人前後の参加者があったということですが,その規模で
    行っていて,大学として知らなかったはずはないのではないで
    すか。」
回答者「それが事実,本当に知らなかったのです。
    (中略)
    ネットなどで話題となって初めて私たちが知り,そんなことを
    していたのかと,びっくりしたのです。」
(法学セミナー636号2頁)


なかなか,法セミの編集者も突っ込んだ質問をしている。ここでも,植村氏・大学の弁明が苦しいものであることが窺える。内部統制が機能していない。


ちなみに,短答で疑惑となった判例は,租税法律主義(憲法84条)に関わる超有名な判例である。だから,事前に「重要判例解説(重判)に載っているから見ておくように」と試験委員から指示されなかったから知りませんでした,という言い訳は通用しない。そもそも,新しい判例が短答に出題されることは,昨年の問題からも明らかだし,平成18年に出された大法廷判決なんて,ほとんど他にないから,受験生から見ても,「これは出そうだな」ぐらいの感覚はわかる。


というわけで,私も事前にこの判例は知っていたし,重判にも目を通していたが,本番では間違えた。実際に受験した人ならわかってもらえると思うが,ちょっとやそっと読んだことがある,というレベルでは,この問題に関する限り,絶対的優位を保てない。なので,上記記事中のように,

この問題の正答率は、慶応の受験生が26.57%だったのに対し、慶応以外は4.52ポイント下回る22.05%。


と,思ったより差がつかなかった(そもそも,こんな大学別の正答率はどうやって調べたんだろう?法務省の調査結果にあったのかな?)。だからといって,「まぁ,いいじゃないか」で済む問題ではないが。