Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

論文力(4)

論文力に関わる要素の2つ目,「分析力」の鍛え方はもっとも難しいと感じている。


おそらく,多くの受験生はここが重要だと感じているんだと思う。これを鍛えようと思ったら,問題に直面し,かつ,その問題に対する答え・ストーリーを編み出すという作業を繰り返さなければならない。そして,自分の考えたストーリーが少なくとも大きく外していないということを何らかの手段で確認したいところだ。


そのような訓練に適した題材はあまりない。もっとも適しているのは,新司法試験の問題である。来年の受験生にとってみれば,今年と昨年の過去問と,プレテスト,サンプル問題を含めれば4回分ある。ただ,本番試験を迎えるまでに全部で4回しか訓練しないというのではさすがに少なく,不安が残る。


一方で,旧試験の過去問は数が豊富だ。だが,最近のモノでないと事実関係の記載が薄くて,あまりトレーニングとして適していないような気もする。また,深く掘り下げて解説を加えたもので,内容的に信頼できるものがない。そうなると,自分の考えが参考答案・再現答案のストーリーとずれていたときに,補正すべきなのか,そのままで構わないかどうかわかりにくく,答案構成のやりっぱなしで終わってしまう危険がある。


私が主に分析力を鍛える目的で使用したマテリアルは,最高裁調査官解説と学者・実務家が書いた演習書のたぐいである。


前者については,事実経過がきちんと書いてある上に要点が絞られており,事案を読み込んで,何が問題なのかを考える題材としては手ごろだと思う。もちろん,題材となる判例は有名な判例なので,結論は見えている。ただ,自分の考えが判例の結論と違っていた場合でも,それが敗訴した側の代理人の主張や,破棄される前の原審の結論・理由と同じだったりすると,「そういう考え方をしても許されそうだな」というような感覚を肌で感じることができたりする。


また,新試験では,ある結論に至る立場を自分で選択し,その立場からだけ論じればよい,というわけではなく,それぞれの当事者の立場から立論しなければならないケースもあるし,裁判官の立場から論じることを求められるケースもある。だから,一つの事案で,それぞれの立場からどういう主張が展開されたのか,ということが凝縮して書かれている調査官解説は,タメになると思う。


法科大学院最後の定期試験を終えた2月頃から,資料室や図書館で毎日1,2冊の法曹時報を取り出して,気になる判例を取り上げては1日平均して3本ぐらいの解説を読んでいたように思う。取り上げた判例は,法曹時報の新しいものから順に古い方へ追っていった。それでも結局(裁判例の年月日が)平成10年ごろまでしか遡れなかったと思う。


後者(演習書)については,事実に関する記述がプアであることが多い。しかも,解説は事案とあまり関係なく,ただ単に学者の書きたいことを書き綴っているようなものもある。そういう点では「分析力」を鍛えるトレーニング題材として適切でないかのように思えるが,解説を読むことで,学者の思考プロセスを追体験できること,予備校の出版物と比較して誤りの可能性が低いこと,ひとつの問題を深く掘り下げて読むことによって分析力向上の訓練となるのではないかと考えられること・・などの理由から,これらの演習書等を題材として選んだ。


具体的には,法学教室の「演習」コーナー,民事法3冊(日本評論社),ウォッチング労働法などである。ケースブックのたぐいで,判例の要旨と設問が用意されているだけのものは独習に向かないので受験勉強としては使わなかった。