Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

論文試験っていうのは

法律の論文試験っていうのは,たとえていうなら,出題者が投げてくるボールを,回答者が打ち返すようなものだと思う。


出題者が1つの勝負(1つの問題)で投げるボールは1球とは限らない。論点というか,出題者が聞きたいことにつき,1球ずつ投げられる。事前に回答者は,何球投げてくるのかわからないし,回答し終わったところで,今の勝負でいったい何球投げられたかすら気づかないまま終わる。


それぞれの球はすべて同じ重みを持つというわけではなく,出題者としては,「これは外すなよ」という球もあれば,「余裕があれば打ってみたら?」という球もある。回答者としては,全球をクリーンヒットすることはほぼ不可能である。はじめて見る球にとまどいつつも,配球を読みながら,ある程度あたりをつけてフルスイングしたり,適当にカットしたり,なんとか当てにいったりする。


スイングしてもその場ではほとんど感触が残らない。たいがい,勝負が終わった直後は,「あぁ,イマイチだ・・」という感覚が残る。そして,その後,出題者などの解説や,他の回答者との会話から,1球目の球種・球速・コース・重要度,2球目の球種・球速・コース・重要度・・などが判明してくる。そこで,自分のスイングを思い出してみると,球種を読み違えて空振りしていたり,まともに芯に当たってそうなものはひとつもなかったりする。


そこで,「前に飛んだのは,せいぜい1球ぐらいかも・・」などと悲観的な気分になる。しかし,往々にして,周りの回答者もみんな同じ気分になっている。出題者が期待したようにガンガン打ち返してくる回答者はゼロだったりする。しかも,みんな球筋をよく見ずに,同じようなスイングばかりして,空振りするか,詰まったボテボテのゴロにとどまる。出題者は「期待はずれだった」と感想を漏らす。


定期試験にせよ,司法試験にせよ,結局は相対評価なので,みんながそのような低レベルの結果だったとしても,「だいじな一球を見逃しているけれど,他の球の飛距離は出ている」「まともに前にとんでないけれど,いいスイングができている」などという理由で,一定の割合で「合格」とされる。つまり,出題者が期待するレベルに達していない回答者であっても,合格できるような仕組になっている。


翻って,今回話題になっている問題漏洩事件。これは,言ってみれば,事前に出題者が回答者に球種・コースや配球を伝えるというわけではないが,出題者がバッティングピッチャーを買って出て,回答者に練習させるようなものだったのだろう。そして,本番では,同じような配球で投げられたといったところだろうか。