Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

おそるべき営業力

ロースクールの修了式の日に手渡された封筒の中には,T社の「法科大学院修了生サポートシステム」のパンフレットが入っていた。


入学当初の3年前から,全学生がLEX/DB(法律情報データベース)のアカウントを使えるようになっているなど,ロースクールTKCはかなり密接な関係にあった。


そして,T社開催の短答模試は,大学のいつも使っている講義室が受験会場だし,院長はわざわざ監督にいらっしゃるし,本学受験生の平均点は掲示板に張り出される。ほとんど大学とTKCが提携している公式模擬試験ではないか,と思えてしまう。


T社という会社は,ロースクール入学前から知っていたが,法律資格試験の受験生支援という事業を以前からやっていた,という話はあまり聞いたことがない。少なくとも,司法試験受験マーケットに関しては,一部の大手予備校の寡占状態にあったといえるから,後発組といえるだろう。


しかし,今のところ,大手司法試験予備校は,本学ロースクールの建物の敷居をまたぐことすらできていない。せいぜい,生協にパンフレットが置いてある程度である。それに引きかえ,T社は上述のように,かなりロースクールの奥深くへ入り込み,挙句には,卒業生に配布する重要な資料の入った封筒(修了証明書や,成績証明書が入っている)に,自社のパンフレットをねじ込むところまで来ている。


今さらいうまでもなく,ロースクールは,予備校嫌いである(とはいえ,すべての教員が中身も見ずに毛嫌いしているというわけではなく,必要な範囲での住み分けを考えている教員もいる)。T社としては,そこにビジネスチャンスがあったのだろう。


学生向けの営業スタイルにしても,予備校とT社ではずいぶん違った印象である。予備校のメルマガに登録すると,不定期に様々な情報が送られてくるが,「○○塾長のライブ講義」といった文句が並んでいても,いい大人にはまったくリーチしない。「今年の短答の足切りは240点!」など,煽り文句にも興ざめしてしまう。


他方,T社のメールをみると,営業担当の腰の低さを感じてしまう。例えば,

東京会場で受験を予定されている受験生から、TOCとサンシャインのどちらの会場を選択したら良いか、多くの問い合わせをいただいております。

という出だしに続いて,かなり具体的な提案をしている(少し長いが,以下に引用する)。もっとも,かなりパターナリスティックだともいえるが。

 TOC会場は出入口のドアが大きな引き戸になっており、トイレに行く人が席を立つ場合、ドアを開ける音が大きいといった特徴があります。昨年実施した際にもTOC会場では周囲の音が気になるという声が多くありましたが、実際の本試験でも同様のようでした。

 このため会場の選択で迷われた場合、本試験会場がTOCになった場合のことを考えて、模擬テストとしては、TOC会場で受験されることをお薦めいたします。ただし、会場定員がありますので、お早めにお申込ください。

 また昨年修了した受験生は、既にTOC会場での受験を経験しておりますので、今回はサンシャイン会場で受験されることをお薦めいたします。いずれにしましても片方の会場が定員になりましたら、もう一つの会場に変更させていただきますので、この場合はご了承ください。

また,

会場受験の会場費が高いとの声もありました。

に続いて,

会場使用料は大変高いため実費で料金設定をしておりますが、原価割れも見込まれています。

・・と,自社の苦しさを見せつつ,相手の同情を買って契約を取る,という営業の常套手段も見せている。金額の絶対的な多寡で判断する学生たちに通用するかどうかは微妙だが。


いずれにせよ,この3年間でロースクール教育にT社はかなり深く食い込んでいるといえる。とはいっても,マーケットがそもそも小さいことを考えると,「大きな魚」を釣ったといえるかどうかはわからない。