新司法試験の短答式憲法では,いわゆる1212問題が得点を左右する大きなカギとなる。
1212問題とは,1つの問題に,4つの文について,正しければ「1」を,誤っていれば「2」をマークして,4つすべてが正しければ3点獲得する,という問題だ。ただし,4つ中,3つまで正解すればオマケで1点もらえる。単純に考えれば,この問題で3点取れる確率は16分の1だ。
今年の新司法試験では,この1212問題が,憲法の中で8題出されている。憲法の配点は50点だが,そのうち24点が1212問題を占めることになる。これをいかに乗り切るかが,短答式で「まとも」な点数を出せるかどうかに関わる。
確かに,ひとつひとつの正誤はそれほど難しくない。だからといって,常に正解するのは困難である。「そこそこできたかな」と思って採点してみても,ところどころ間違えてしまうと,ほとんど点数は稼げない。
前置きが長くなったが,この1212問題で,「まとも」な点数を稼ぐには,各記述について,どの程度の正答率が必要なのかを,検証してみた。
まず,単純に1212問題が1つのケースで考えてみる。
ここに,正答率100%の受験生がいたとすれば,彼は3点がゲットできることになる。つまり,配点3に対して,得点も3であり,得点割合も100%である。
続いて,4つ中3つ正解した受験生(正答率75%)がいたとすれば,彼は1点ゲットする。正答率は75%だったのに,得点は1にとどまるから,得点割合は33%になってしまう。
さらに,4つ中2つ正解した受験生(正答率50%)は,1点ももらえない。正答率50%になってしまうと,得点はゼロである。よって得点割合も0%である。もちろん,1つしか正解しなかった受験生(同25%),4つとも間違えた受験生(同0%)も,得点ゼロ,得点割合0%となる。
これを表にすると,以下のようになる。
正答数 | 正答率 | 得点 | 得点割合 | ロス率 |
---|---|---|---|---|
4 | 100% | 3 | 100% | 0% |
3 | 75% | 1 | 33% | 41% |
2 | 50% | 0 | 0% | 50% |
1 | 25% | 0 | 0% | 25% |
0 | 0% | 0 | 0% | 0% |
ここで,ロス率というのは,各記述に対する正答率から,実際の得点割合の差を表す。これが大きいほど,歩留まりが悪いこと,すなわち,「せっかく合ってたのに,得点には結びつかない」という現象が生じる。これをみると一目瞭然だが,各記述に対して正答率が半分では話にナランし,75%であっても,足切りを喰らうことになる。
ここまでは当たり前のことで,別にエラそうに書くようなものでもない。
次に,1212問題が2つ(配点6)のケースで考える。
ここでも,正答率100%の受験生がいたとすれば,彼は6点がゲットできることになる。つまり,配点6に対して,得点も6であり,得点割合も100%である。
続いて,8つ中どこか1つだけ間違えてしまった受験生(正答率87.5%)がいたとする。どこで間違えたにせよ,彼は各問について,3点と1点ゲットする。正答率は87.5%だったのに,得点は4にとどまるから,得点割合は66.7%になってしまう。ここまでは,まだマシなほうだ。
つぎに,8つの記述につき,2つ間違えてしまった受験生(正答率75%)がいたとする。このときの彼の得点は,2つの間違いがどのように分散するかによって決まる。どちらか一つの問題に2つの間違いが集中すれば,そちらの問題ではゼロ点だが,残りの問題は4つとも正解して3点ゲットできる。しかし,それぞれの問いで1つずつ間違えたとすれば,各問で3つずつ正解したことになり,1点ずつゲットして,合計2点ということになる。
8つの記述につき,2つ間違える組み合わせは,Combination(8,2)=28通りである。そのうち,前者のように間違いが集中する組み合わせは,2 × Combination(4,2)=12通りで,分散する組み合わせは,残る16通りである。
そうすると,2つ間違えた場合の,得点の期待値は,{3×12 + 2×16}÷28=2.43である。よって,正答率は75%でも,得点割合は,2.43÷6で,約40%にとどまる。もう,この時点で足切り赤信号である。
ここから先は,悲惨である。3つ間違えた場合,全体の組み合わせは,Combination(8,3)=56通りであるのに対し,3点取れる組み合わせは,2 × Combination(4,3)=8通り,1点取れる組み合わせは48通りである。よって,得点の期待値は,{3×8 + 1×48}÷56=1.29となり,正答率が62.5%だと,得点割合は1.29÷6で,約22%にとどまる。
同様に,4つ間違えた場合,得点の期待値は,{3×2 + 1×32 + 0×36}÷70=0.54であり,正答率が50%だと,得点割合は約9%となる。
5つ間違えた場合(正答率37.5%)は,{1×8 + 0×48}÷56=0.14であり,得点割合は2%である。6つ以上間違えると,どう転んでも得点は入らない。
これを表にすると,以下のとおりである。
正答数 | 正答率 | 得点 | 得点割合 | ロス率 |
---|---|---|---|---|
8 | 100% | 6.00 | 100% | 0% |
7 | 88% | 4.00 | 66% | 22% |
6 | 75% | 2.43 | 40% | 35% |
5 | 63% | 1.29 | 22% | 41% |
4 | 50% | 0.54 | 9% | 41% |
3 | 38% | 0.14 | 2% | 36% |
2 | 25% | 0 | 0% | 25% |
1 | 13% | 0 | 0% | 13% |
0 | 0% | 0 | 0% | 0% |
ここまでくると,もう長くて誰も読んでもらえないと思うが,「8つ中,6つ合ってれば御の字」というわけにいかないのは明らかである。
続いて,この調子で,1212問題が,3つのとき,4つのとき・・・と徐々に数を増やしていけば,必要な点数に対する正答率の目安が算出されることになる。これ以上書くと,長くなってやってられないが,ちなみに1212問題が3つの場合は,
正答数 | 正答率 | 得点 | 得点割合 | ロス率 |
---|---|---|---|---|
12 | 100% | 9.00 | 100% | 0% |
11 | 92% | 7.00 | 78% | 14% |
10 | 83% | 5.27 | 59% | 24% |
9 | 75% | 3.82 | 42% | 33% |
以下略。これをみると,1212問題で,6割得点を稼ぐには,正答率が83%ぐらいが必要である。
もちろん,憲法には,その他の問題形式もある。1212問題はそれほど高い得点が出せなくても,他で稼げばよいではないか,という考え方もありうるだろうが,先日の模試や,今年の本番試験をやってみた感想からは,他の問題だって難しくないどころか,むしろオマケの点がもらえないだけあって,いっそう厳しいともいえる。
そうすると,さしあたり,1212問題での個別の問題の正答率は,85%から90%ぐらいに目標を設定するのが妥当であろう。
なお,あれやこれや計算しているが,検算していないので,誤りもあろうかと思う。もしお気づきの箇所がありましたらご指摘ください。