Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

イッキ読み

ビジネスローコース会社法のレポートテーマは,先月出されたばかりのダスキン株主代表訴訟控訴審判決である。


本日,判決文が配布されたのだが,190ページもあって卒倒しそうになったが,判例時報労働判例判例百選などと比べて1ページの文字数が圧倒的に少ないので,かなり読みやすい。それでもちょっとずつメモを取りながら,一気に読んだら3時間ぐらいかかった。


さて,これから論ずべきテーマを決めて,必要ならば他の判決にあたったりするなどの資料を探して・・と考えると,この時期に行うにはかなり気の遠くなる作業である。


この判決,取締役の責任を厳しく認めた,という点で反響が大きい。特に,

「自ら積極的には公表しない」ということは「消極的に隠蔽する」という方針と言い換えることもできる

とか,被告取締役が,公表しないことも経営判断の問題だ!と主張したことに対して,

「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで,成り行き任せの方針を,手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは,到底,「経営判断」というに値しない

などと,手厳しい。


法的性質は異なるものの,これを読んでて思い出したのは,情報システムの運用保守の場面である。情報システムにトラブル発生はつきものであるが,これらのトラブルはユーザからの指摘によって発覚するものに限られず,運用保守担当者が内部的に発見することも多い。もちろん,そうしたトラブルが致命的で,早々にユーザに知らせないと問題があるものについては公表しなければならないことは言うまでもない。


では,トラブルが重大ではなく,しかも発見とほぼ同時に修正が終わり,過去のデータについても影響が出ていない,という場合,どこまで知らせるべきか。さらに,トラブルは重大ではないが,修正方法は調査中で,あと数日中には修復する見込だが,そのまま運用を続けても大きな問題はなく,仮に問題があってもデータは即時に対応できるとしたら,どうするか。


トラブルには業務の重大性,原因究明難易度,修復難易度,他への波及性など,様々なレベルがあるから「何でもかんでも広く知らせるべき」というわけにもいかない。運用保守を委託される立場の業者からすると,帰責性のあるトラブルについては,信用に関わるから,知らせなくてすむのなら隠したくなる気持ちもわからなくもない。しかし,昨今のシステムトラブルの影響の大きさや,危機管理,内部統制などの問題意識の高まりからすると,こういった問題領域でも,「積極的に公表しない」=「隠蔽」として,結果しだいでは厳しく責任を問われることになりそうである。