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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

労働基準法18条の2

ひとつの出来事も,それぞれの視点によっていろんな評価がなされる,ということを再確認させられた例を。


労働基準法18条の2という条文がある。「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」という内容で,2003年の改正によって盛り込まれた,新しい条文だ。


民法労基法によると,ちゃんと予告して手続を踏めば,解雇は自由,というのが原則であった。しかし,それでは労働者に酷でしょう,ということで,昭和50年代の頃から判例で,「客観的に合理的な理由を欠くような場合は無効になる」という判断が繰り返されていた。


この条文が規定される経緯には,かなり激しい議論がなされたようだ。労働法の講義や教科書を読む限り,あやうく使用者の解雇権を正当化されそうになるところだったが,労働者保護のために「解雇には合理的な理由がなければならない」というルールを勝ち得たものだ,という印象を受けていた。


他方,今週号(2006.7.10号)の日経ビジネスの「格差の世紀」を読んでいたところ,正社員と非正社員の格差について問題を提起されていた。その中で,正社員と非正社員の行き来を促進するため,小泉政権誕生後,「解雇ルールを明確化せよ」との首相の一声で,議論が進んだが,労働政策審議会で「葬り去られた」とある。「結局,それまでの判例を形にしただけの抜け殻のような法案が成立した。」とあり,具体的な条文に言及していないが,おそらく労基法18条の2のことを指すのだろう。