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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

引き抜き,競業避止義務

本日の労働法ゼミのテーマは,労働者の退職後の競業避止義務である。


つまり,平たくいうならば,

  • 会社をやめた後に,同業他社に転職して前職のノウハウを利用したり,新しい会社を設立した場合,前の会社に訴えられてしまうのか
  • 転職前後に前の会社の同僚,後輩を引き抜いた場合,前の会社に訴えられてしまうのか
  • 「退職後2年間は同業他社に就職しません」旨の誓約書などを差し出していた場合はどうなのか
  • 訴える場合,損害賠償だけでなく,営業差止請求なんていうのも認められるのか

といったことが問題になる。


私がかつて所属していた業界は,上記のようなことが日常茶飯事であった。つまり,同業他社に就職する,後輩を引き連れて独立する,なんてことはよくあることだ。現に,私も最初の会社を退職し,先輩に誘われて同じ業界に属する会社設立に加わり,前の会社の後輩や同期にジョインするよう説得したこともある。ちゃんとした記憶はないが,「退職後2年間は同業他社に就職しません」というような趣旨の誓約書を差し入れていたかもしれない・・・


当時は法律の知識がなかっただけに,こうした行為をとっていたことについて,多少,「これってまずいことなのかなあ」などと思ったことがあったのだが,それが具体的にどのような法的効果を生じさせるのか,よくわかっていなかった。それだけに,後味の悪いやめ方をしない,会社の資料を持ち出さない,お客さんを奪うような行為はしない,といったことにずいぶんと気を使ったものだ。


実際に,こうした場合において,損害賠償が認められたり,退職金が支給されなかったりするケースというのは相当特殊な,背信的な場合に限られる。だから,普通,行われているような同業他社への転職だったり,友人,同僚を勧誘する行為が違法となることもほとんどありえない。そういう意味で,今回判例をいくつか読んでみて,「これぐらいやってしまうとマズイ」というラインがおおよそ見えたという意味で,大いに勉強になった。