Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

訴状というもの

今回の民事模擬裁判で,私の役割は裁判官である。原告代理人役のグループから本日訴状が提出され,ツルオ裁判長を介して先ほど私のところに届けられた。


送られてきた訴状を見て,思い出したことがある。


これまでの人生で,一度だけホンモノの訴状を見たことがある。仕事関連のトラブルが訴訟に至ったわけだが,送られてきた訴状を見て,「これが訴状というものか」と,大変衝撃を受けた。厳密には,私は当事者ではなく,X社に届いた訴状を見せてもらったことになるのだが。


まず,法律素人が訴状を見て最初にインパクトを受けるのは「被告」という表現である。もちろん,民事裁判で被告,ということばが使われることは知っていたけれど,それまで「被告」というのはマスコミを通じて報じられる「犯罪者」ぐらいのイメージしか持ってないから,X社が,そしてX社の社長さんが,「被告」となっているのをみて,これはなんだか大変なことになった,と思った。


続いて驚いたのは,いきなり「請求の趣旨」という欄に「被告は,原告に対し,x億xx万円・・・の金員を支払え」,と強烈な命令口調の文言が書いてあったことである。すぐさま支払わないとまずいのではないか,とさえ思った。


ほかにも,訴訟になったことが双方の当事者のホームページにプレスリリースとして掲載され,これはエライことになった,いったいこの先,どうなってしまうんだろう,などと驚いたり不安になったことはたくさんある(実際に,マスコミから取材申込も受けた)。しかし,ロースクールに入って,当然のように判決などを読んでいくうちに,こんな感覚はまったく失われただろう。というより,いちいち判決主文の「支払え」にびびっていては,判例など読めない。


上に書いたような素朴な感覚は,実務に出て,自分が代理人として訴状を書いたり,受け取ったりしても再び感じることはないだろう。・・と考えると,あのときはずいぶんと不安に感じた出来事ではあるが,素人ならではの貴重な体験をさせてもらったものだと思う。