Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

未知の情報を元に学ぶこと

法律の勉強で苦労した原因の一つに,法律学の世界では「既存の知識をもとに未知の知識を習得する」という常識が通用しないという点がある。


どういうことかというと,例えば算数の分野で考えると,四則演算を習った上で分数の演算を勉強するし,それらを学んだ上で,一次方程式が解けるようになる。平方根を勉強すると二次方程式が解けるようになる。このように,新しい知識を習得するためには,既に習得した知識をベースに学ぶことになる。自然科学の場合は,多くはこのように知識,定理が体系的になっているから,順にステップアップすることができる。


法律の場合は,そうはいかない。いろんな条文や概念が有機的に結びついていて,民法の序盤で出てくる「意思表示」を勉強するのですら,いきなり「契約」「不動産登記」「解除」「差押え」などの概念が続々と登場する。もちろん,一般常識の範囲内で太刀打ちできないこともないけれど,土台がしっかりしないまま,無理やり理解しようとして気持ち悪くなることが多い。


これでは,三角関数を習ったばかりで,微分を習う前に,「正弦(sin)と余弦(cos)の関係は,sinの導関数がcosです」と言ったり,連立方程式や2次正方行列を教えずにいきなりガウス消去法を教えたりするようなもの(ちょっと違うか?)。


その点,内田先生の民法の教科書は,そのあたりの配慮がよくなされていると感じた。必ずしも民法典の体系を維持することなく,学習者の便宜を考え,未知の知識を交えなければならない場合には事前に簡単な解説を加えてくれている。とはいえ,一通り勉強した後だと,どこに書いてあったのか探すのが難しくなるという欠点があるが。