Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

子どもをダシにする

法律の教科書に載ってる説例に対して「そんなの,あり得ないよ」という突っ込みを入れることは,まるで子どもの頃にアニメに対して突っ込むのと同じレベルのような気がする。でも,刑法の説例(特に総論)では,子どもをダシにするケースが多くて,ついつい突っ込みを入れたくなるときがある。


例えば,

「自殺の意味がわからない子どもを殺そうとして,『この輪に首を通すと天国へいける』と唆して首吊り自殺させた場合には,いかなる罪責を負うか?」(間接正犯,被害者の同意などの例)

「川で自分の再婚相手の子どもが溺れているのを見たが,普段から『死ねばいい』と思っていたので,敢えて何もせず,溺れ死んだ場合,いかなる罪責を負うか?」(不真正不作為犯の例)

「相手が時計を投げつけてきたときに,その時計を叩き壊しても正当防衛が成立して罪にならない。では,同様のケースで,相手が赤ん坊を投げつけてきたときに,その赤ん坊を叩き落して怪我をさせたら,いかなる罪責を負うか?」(正当防衛,緊急避難の例)

など。など。「司法試験の勉強する人って,こんなことばっかり考えてるの?」と思われそうである(実際考えなくちゃいけないけど)。


なかでも,特に違和感を感じたのが,平成13年の司法試験での刑法第1問。特に太字部分。

甲は、酒癖が悪く、酔うと是非善悪の判断力を失い妻乙や二人の間の子供Aに暴行を加える事を繰り返しており、そのことを自覚していた。甲は、ある日、酒を飲み始めたところ、3歳になるAが台所で茶わんを過って割ってしまったことを見とがめ、Aの顔を平手でたたくなどのせっかんを始めた。甲は、しばらく酒を飲みながら同様のせっかんを続けていたところ、それまで泣くだけであったAが反抗的なことを言ったことに逆上し、バットを持ち出してAの足を殴打し重傷を負わせた。甲は、Aが更に反抗したため、死んでも構わないと思いつつAの頭部をバットで強打し死亡させた。乙は、その間の一部始終を見ていたが、日ごろAが乙にも反抗的な態度をとることもあって、甲の暴行を止めようとはしなかった。甲については、逆上しバットを持ち出す時点以降は是非善悪の判断力が著しく減退していたとして、甲及び乙の罪責を論ぜよ。